石  榴


蓬踏めば蓬の匂ひす蕗摘めば蕗の香ただよふ夏至の夕風

白き馬を魁夷の絵より放たばや蓴菜
(じゅんさい)咲きたる沼のほとりに

時きざむ音の恋しき夕まぐれかなかなかなと踝よ鳴け

地蔵堂まで歩む苦労の老姥たち済んだ死んだの訛りが聞こゆ

噛み砕き吐けば火炎になりしとふ石榴は魂魄の爆ぜたるならむ

魂魄が長空
(そら)に炸裂したるゆゑ石榴の実を割る風のありけり

石榴の実落ちてしまらく経たる日に長空わたる朱鷺となりにけらずや



        遠野四首

   馬と少女の悲恋の果てに授かりし蚕飼ふ桑見当たらぬ遠野

   横になり聞くも良しと語り部は屁を放
(ひ)る嫁の話を続く

   花盛る栗の連なり遠見ゆる肝煎りと大工と弥十郎の曲り家

   早池峰も六角牛も雲のなか谷に山椒魚
(はんざき)棲まはしむらし



にほん海はにっぽん海なり落暉さへわたなかに呑むむらぎも熱つかり

酔余の目にビアタンブラー揺れてゐて太り過ぎの黒猫を見つ

不動心とはと自問自答してみるトマトの花の実となりしのちも

向三軒みな住み替えて去りにけり木槿の花の顔施
(かんばせ)あまねし

檜扇の洗朱
(あらいしゅ)の花に流れ来て吐息のごとかる晩夏の風は

コスモスを挿したる瓶の青き肌わが六道を映すことあらむ



画像自作:ダリア(ジェシカ)