猩々木
新兵衛の百日紅を見に行かう花咲爺の気分になるから
オーボエとギターと合奏してゐるよ山姥が芋の葉を揺らすときに
秋彼岸に山茶花は咲かざりき 古稀の集ひの出欠も未定
<ママさんコーラス>の楽譜の中に<お父さんコーラス集>がポツンと立つ
まづ歌はむメロディーのない低音部をきみのバリトンとわがバスだけで
テノールを見つけるために飲みにゆく<アメイジング・グレイス>の楽譜揃へて
開店した「太郎と花子」で立ち読みする太郎と花子、太郎と花子
三百種を植栽する温室で伸びられないあをいあをいバナナ
泥鰌とぶ月夜と詠ひし俳人は十三夜の宵みまかりたる由
真夜中に底光りするデジタル数字 飛蚊症となるデジタル数字
履くことなきゴルフシューズに霜降りぬズーズー弁の重き口にも
大鋸屑が残るだけなりうづたかく鈴懸の大木たりしあかしに
鳥海の山頂(あたま)の南が近道ぞじふにぐゎつのせっかちな陽よ
赤き赤きポインセチアはあからひく光り集めてややにあかだむ
赤き赤きポインセチアは鬼の色男鹿の山より駆け下る色
赤き赤きポインセチアの火の色はソプラノのアリア《ルチア狂乱》
赤き赤きポインセチアの花の色花にあらねば陰をともなふ
赤き赤きポインセチアの一鉢はクリスマス・イブに売れ残りたり
赤き赤きポインセチアの赤心は南の波折(なおり)に消えし特攻機
赤き赤きポインセチアはよろよろと酔ひて舞まふ酌みて舞まふ
画像自作:ダリア(上総春暁)