鬼首の椿

美少年は薄命であらねばならぬと思ふマネキン人形に命あたへて

夢のゴーシュ修羅のすがたでセロをひく私が好きな春のワルツを

立ち上がるまんさくの枝あぢさゐも雪の下から花芽ふふみて

酔ひて泣く人と語りて帰り来ぬ愛別離苦の話かみしめ

鹿見橋かもしか橋と峡
(かい)を行くなまなま赤し鬼首(おにこうべ)の椿



ぼぼっほほぼぼっほほと啼きしばし止む足の底より山鳩のこゑ

ぢぢとばば二人づつゐて小躍りの孫をかたみに抱き上げにけり

評に曰く「偉大なマンネリ」黄門のドラマ見てゐる私の日曜

雪解雨やさしく降りぬ音が好き四月の感覚こそばゆきもの

呵呵呵呵呵大笑ひする文字表現コウコウと呼ぶ恋する猫は


日溜りに鳩は群れつつ鳴きしかな花屋の切り花よみがへる午後

春山に木花開耶姫坐
(ま)しませり花屋は後継ぐ息子を連れて

をりをりにひざまづくとも届かざる時間は過去世錆びたる椿

三本のテレビ塔に串打たれ沈む日輪しばし止まる

一粁が一センチメートルと地図に見ぬ佐久より小諸馬籠への道

五十歳を迎へて老入
(おいり)と言ひしとぞ江戸の言葉は老後より良し


画像自作:ダリア(乾杯)