極楽鳥花
余寒なほコートをとほす雪解道妻には妻の歩幅ありけり
はだら雪をちこちに残る川原へ雲雀のつがひか鋭角に落つ
袈裟ころもつけたる僧の現はれて施餓鬼の壇へ灯明を捧ぐ
修證義を読誦してゐつ妻と共に生死(しょうじ)を如何に明(あ)きらむらむか
大砲の薬莢に極楽鳥花を供へたり父は砲兵軍曹たりし
スーパーの広告塔が灯りをり求不得苦(ぐふとっく)いま始まりてゐたり
筆順を確かめてをり沈丁のかほりかそかに流るる部屋に
壷(こ)の底に封じたいこと木瓜の花をそっと手のひらに転ばしてみる
白い破線が道路のはたてに続くから地球の内を見たくなりたり
まんさくの小花に聞かむゐずまひを多感な鴉が呵呵と鳴きたり
須臾の間も忘れかねたる望みなど「べらぼう凧」に睥睨されぬ
好き相に老ゆるを希ふ年齢(よはひ)はや喇叭水仙先祖に供ふ
白木蓮つばき連翹うめさくら咲きこぞりたりおらが四月は
花盛るさくらの彼方の風のこゑ葷酒(くんしゅ)とともに聞くを許せよ
流しえぬ言葉残れば花春の長き時間に吾が近寄れず
画像自作:ダリア(ウルバカレル)