アカシア 友逝く
死とは純白、否、ぬばたまの闇ならむ泰山木の花は散りたり
人の生(よ)の名遂げたると思へどもむなしかりけり白菊の列
ほほゑみをたたふる遺影見上げけり記憶にとどむる面影として
三年間となりの席に君ましき五十年前の中学時代に
「りべらる」とふカストリ雑誌を持ち込みて裸体写真を見たる昂ぶり
終焉の場所となりたる病院のアカシアの花零して雨は
輪唱のこだまにあらず朴の花の友を迎ふる華美吹奏(ファンファーレ)かな
装飾音(トリル)
鉄線の花むらさきに秘めたるを語るがに見ゆ半夏生の朝に
雨に濡るるあぢさゐの毬すぐりの実蟇(ひき)の目にさへ愛しからむに
布袋葵うすむらさきのはなつけぬ寂寞(じゃくまく)たれば秘仏めきたり
ブレスなき水防サイレン鳴りひびき梅雨明け近き川ほとばしる
「英介が四つん這ひしたよ」との電話それからホホーと野鳩が鳴いた
習ひとて「食ひ初め」に含ます飯粒を舌もて押し出すをさなき拒絶
残り花装飾音(トリル)のやうに振るひゐつ川風わづかに受けつつ合歓は
西馬音内盆踊り三首
野放図な風刺のことばも綯ひまぜて音頭高鳴れば踊り子集ふ
滅亡の小野寺氏の霊(たま)送らむと遠き祖(おや)どち踊りたりしと
彦三(ひこさ)頭巾かぶりて異形(いぎょう)の撓ふ手の闇押して引く盆踊りの輪
ロボットの玩具と飽かず遊びをり子らは宇宙を天翔るらし
風かよふ途はありけり稔り田の上一筋に鳥海山まで
病院にあをく灯れる非常口幽冥のさかひは鉄扉であるらし
画像自作:ダリア(メアリー)