蕗の薹

棲む鳥の恋路黄泉路も雨のなか善知鳥(うとう)沢のまんさくの花

追剥ぎのやうに行くのか春疾風
(はやて)白鳥は北へ帰らむとす

雪解けの流れゆたかに梅ともる石の地蔵の白寿ならずや

まばたきて春の山やま対きをりぬ夕さりくればちちははとなる

蕗の薹空き家の裏の日溜りに黙したるまま開かざるまま

舌代とふ言葉なつかしみ辞書をひく死語と失語をいたはるために

珈琲に掻き混ぜてゐる春の雲鐘韻をともに遊ばせながら


資金難の或る日ある日が重なれる三十二年前のダイアリー手帳

終のわれは白椿ならずや錆びつきて累々たるかな落花狼藉

美しきことこそ良けれ菜の花は形状記憶す 今花盛り

身欠き鰊の若布巻き欲る祖母の顔 寺の弥陀佛目つむりをり

串刺しの焼き鳥食すは易ければトンソクは止めよ淋し過ぎるよ



栗の花の匂ひただよふ梅雨の日は遺書など書ける暗き昼なり

雨降りは暗し暗しと提灯屋夏のまつりの灯篭を貼る

頬杖のどこから夏になりゆかむ思案をよそに鉄線花の蔓

仕事持たねば今宵合唱
(うた)ふを待ってゐる♪川は何かと問ふことを止めよ♪

時の行方を問ふことなかれ時はただ時計回りに時きざむのみ

太い数字がドライバーめきて一列に並んでいたよ中古車市に


画像自作:ダリア(キャメロットローゼ)