★★★★ 安倍首相の歴史観を問う
         
保坂正康 講談社 2015


 本来は温厚な歴史家であったはずの保坂氏も、近年は日本政治の中枢が、歴史修正主義(歴史を歪曲すること)を基本とし、またTVや週刊誌でも恥知らずなそのような意見を真顔でしゃべる輩が珍しくない社会になり果てたため、氏の文章には切羽つまったものを感じさせられるようになってきたと思います。。

保坂氏は特に昭和史をライフワークにしているため、そのような歴史修正主義には、とてもいらだっているものと推測します。
 この本の第1章は、「謙虚に史実と向き合うということ」、という題名ですが、本来はこの国の裏街道でひっそりと話されていたはずの歴史修正主義が権力と一体化している状況を憂え、そんな国は日本以外には、世界に一つもない、と書いています。

 歴史修正主義については、私なりに別項で説明していますので、参考にしてください。

 保坂氏は、「戦間期の思想」という概念を、きちんとわきまえておくことが大切であると述べています。「戦間期の思想」とは、次の復讐戦に向けた待機の期間です。
 日露戦争に負けたロシアは、雌伏40年の末、1945年突然、日露の中立条約を破棄して(これは連合国側の承諾をとっていた)、
満州その他に攻め入り、樺太と千島4島をぶんどった。第一次世界大戦で負けたドイツは、(たいへんな経済的困難に見舞われたせいもありますが)、雌伏17年でヒトラーを首相にし、周辺地域にも侵略して、大戦争をまき起こした。

 「戦間期の思想」は歴史の常道です。しかし、日本は、「戦間期の思想」をついに持たなかった。これは人類史上、初めてのことと、保坂氏は述べています。
 その原因は、新憲法の関与もあったが、保坂氏によれば、「二度と戦争はごめんだ、という国民の強い意志」、であったとのことです(別頁に書いた、和田春樹氏も同じことを言っています)。
 しかし、安倍やその周辺の歴史修正主義の存在は、日本にも戦間期の思想があるのか、という強い疑念をいだかせています。だからこそ、安倍が、米の牽制も袖に振って、靖国に参拝したり、「今の日中関係は、第一次世界大戦前の独仏関係に似ている」、と公式な場で発言したとき、世界中から、大きな驚きと不安、強い疑念の声がまき起こったのです。

 私が思うに、現代日本の右傾化は、やはり、6、70年遅れて表面に出てきた、大衆の「戦間期の思想」なのかもしれませんね。もちろん、米に復讐するわけにはいきませんから、せいぜい中国や韓国の悪口を言う程度に止まっていますが。
 ところで保坂氏は、中国はある意味で、日本の戦間期の思想が表面に出てくるのを、実は望んでる、と書いています。このことは、皆さん、よおーく考えておいた方がよい、と私は思います。

(以下、作成中)