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 NHKが日本をダメにした  武田邦彦 詩想社 
  900円、2014

題名については、同感なので、2015の正月につい衝動的に買ってしまったのですが、著者の顔写真をみて、あ、買わない方がよかったな、と後悔しました。以前、この方の本を読んだとき(内容は忘れました、環境問題のだったかもしれません)、いやこれは違うぞ、と思った記憶があるからです。---その種の本は、何でもとっておきたがりの、うつ系の私でさえ、すぐに捨てます。---

 案の定、問題の多い本でした。NHKへの批判について、その報道----佐村河内事件、STAP細胞事件、原発事故、環境問題(氷山に乗れなくなったホッキョクグマや、海に沈もうとしているとされた南洋の小島ツバル)、メタボ検診や人間ドック学会の「健康基準」の件などなど、---における問題点について書き連ねていますが、一部共感する部分もないではありませんが、多くの点において、著者には強い違和感をもちました。

 1 メタボと「健康基準」などの医療問題について

マスコミや本などの信頼性を判断する場合、まずは自分の専門分野においてどういう報道がなされているかを知れば、他の分野においても、その新聞や本の著者のレベルがよく理解できる、と書いていたのはたしか加藤周一氏だったと、思いますが、私もずっとそれを基礎にしていろいろ判断してきました。
 武田氏の本では、まず本件について読んでみましたが、全然だめです。
 人間ドック学会による「健康基準」について---これは今までの地道な医学研究を無視した、ひどい代物ですが、私のコメントは別項に書いてます----,武田氏は、何の証拠もなしに、人間ドック学会の基準が正しくて、高血圧学会など正統的な多くの学会は製薬業界などと癒着した「利権団体」と決めつけています。私からすれば、「人間ドック学会」こそが、利権団体です(国民をなるべく医者に行かせないという意図をもっている健保連=健康保険連合会と癒着しています)。
ドック学会の「健康基準」はだめなもので、もう誰も相手にしていないはずです。去年(2014)の春に、大騒ぎした週刊誌(週刊文春など)も、売るものを売ってしまえば、あとは知らんふりです。
しかし、武田氏はまだドック学会の基準を正当的と信じているようで、自分が高血圧でかかっている主治医が次のように言ったと誇らしげに書いています。武田氏が外来で血圧が135で、今までは「まあいいでしょう」、と言われたのが、ドック学会の数字が出てからは、同じ135でも、「素晴らしいですね。基準より15も低いんですから」と言ったとのこと。
日本もしくは世界中のまともな医師で、そんなことをいう人は、100人に1人ぐらいしかいないと思いますので、武田氏の主治医は、高血圧に関しては、やぶ医者であるか、もしくはこのエピソードは、武田氏が勝手にねつ造したものと、私は推測します。

2 STAP細胞について
 上記を読んでからは、他のページはまともに読み気がしなくなりましたが、この件についても少し言及しておきます。

武田氏は小保方晴子氏への疑念はまったく書かず、ねつ造論文の疑惑が広がってからの理研の姿勢とNHKの報道内容への強い不満を書いている。そして、「論文におけるコピペはふつうのことだ」とか、「実験ノートがないのは全然おかしくない」などと言ってます。私は35年前にたった2年ぐらいですが、研究者的な日々を送っていた時があり、それを踏まえていえば、武田氏の意見はまともではないと考えます。
(まあ、同じ科学といっても、分野が違えば、多少は異なることもあるにはあるだろうが)。
 また武田氏は、ワトソン・クリックの二重らせんの論文が、たった1ページだったことを挙げていますが、それがSTAP細胞・小保方問題と何の関係があるのか、私にはまるで理解できませんでした。
さらに、同じページには、ワトソン・クリックのその論文について、「彼らが使ったデータは、彼ら自身のものではなく、他人のデータだった」、と書いていますが、そんなことはないでしょう。彼らの、創造的で、人類の科学史に永遠に残るであろう論文は、思弁的なものではなく、科学的データに根拠をおいたものだったからです。
まだ存命のワトソン博士が、もしこんなことを書いている人間が世界のどこかにいることを知ったら、あきれ返るでしょう。(あほらしくて、怒ることはないでしょうが。)

STAP細胞事件の本質は、理研の体質、上司の無責任体系にもあることはそのとおりでしょうが、もっと根本的なのは、科学者の顔をした人間の中には、「ねつ造を安易に行ってしまう人間が存在する、それは男であろうと女であろうと一向にかまわない」、ということでしょう。
 STAP細胞は存在しない、ES細胞を紛れ込ませただけだ、理研の結論はそうです(2014年年末の記者会見)。
私もそう推測します。ただ理研は、「ではいったい誰がES細胞を紛れ込ませたのか」、という問題については「不明である」、と結論しています。まあ、それは仕方がないのかもしれない。
ただし私の推測では、ES細胞を混入させたのは、「STAP細胞の作成は、200回以上成功しました」、と答えた小保方晴子自身と思います。
理研の上司はたいへんな責任がある、小保方晴子だけをスケープゴートにしてかわいそうだ、という感傷を科学に縁のない方々からしばしば聞きますし、私も少しそう思います。でも一番の問題は彼女自身であることは否定できないでしょう。
問題の本質をとらえずに、ちょっと変わったことをいう、自称科学者、実は売文業氏武田邦彦、この人の本は買う必要はありませんし、彼の意見も信じてはいけません。

3 NHK問題の本質

(以下作成中)