日本人間ドック学会から発表された「基準値」について------

世間に誤解を与えて、たいへん問題のある内容のものです。けっして惑わされないで下さい。

以下に簡単に説明を記しておきます。

 日本人間ドック学会では今年4月に、健康診断における「基準値」というものを発表して、「血圧は147以下」、「LDLコレステロールは178以下」、などとしています。これに
ついて、新聞、週刊誌などで大々的に報道されているのはご存じの方も多いと思います。

 人間ドック学会の「基準値」という意味は、簡単には説明できないものですが、少なくても報道では、「血圧は147以下なら問題ない」、という意味のようにいわれています。

 とんでもないことです。週刊誌----「週刊現代」や「週刊文春」など-----は、これをさらにおおげさにして、「血圧は200でもセーフ」、などと、めちゃくちゃな記事を出している始
末です。

 日本高血圧学会、あるいは世界の医学の標準的な考えとして、外来や検診での血圧は14090以下、家庭血圧では、13585以下がよいとされています。この数字は、日本や欧米などの高血圧の研究者たちが、数十年の流れの中で到達したもので、非常に大切なものです。

 こうした医学の研究成果に反して、今回人間ドック学会が、全然別の数字を社会に発表して、世の中の人々を惑わしていることに、私はとても腹立たしい思いです。事実、日本高血圧学会や、日本動脈硬化学会なども、正式に日本人間ドック学会に対して抗議の文章を出しています(詳しくは、各学会のホームページをご覧ください。)

なぜこのような違った数字が出てきたかの理由は、医学や統計学のやや詳しい話になるので省略しますが、最も重要な点は、日本高血圧学会などが出している数字は、長い年月の中で、どれぐらいの血圧の人が、どれぐらいの割合で病気になっていくかを調べたうえで、140以上の人はもっと下げた方が脳卒中や心臓病などを予防する、という事実と観点に立っているのに対し、人間ドック学会の出した数字は、現在の健康人の血圧の分布を調べただけで、たとえば、145の人を長年そのままにしていたらどうなるか、という観点が全くないものです。

私からすれば、長い年月の調査の観点がない組織が、高血圧学会や世界の標準からかけ離れた数字を出すなんて、おこがましいにもほどがある、と言いたいです。

さらにもう一つ。人間ドック学会が出した数字は、医者に加え、健保連(健康保険連合会)が一緒になって作った数字です。健保連は大企業の健康保険組合の集まった会です。この会は、「なるべく人々を病院に行かせないように」、という動機づけのある集団で、しばしば人々の健康と幸福を願う医師の集団とは、対立関係にある集団です。彼らは圧倒的に経済のことを優先して考えている集団で、健康は二の次です。

けっしてだまされることのないようにお願いいたします。


2014 May