■ | <1> |
| BGMモンキーマジック終わると幕前、幕中よりナレーター登場。 |
N1 | さて、今年の6年生一座の劇は、みなさんご存知「西遊記」です。 |
N2 | 三蔵法師玄奘(さんぞうほうしげんじょう)は、大唐国(だいとうこく)から天竺(てんじく)まで、ありがたいお経をもらうため旅を続けています。 |
N3 | もともと悪い妖怪だった、孫悟空・沙悟浄・猪八戒は、心を入れ替え、人間に生まれ変わるために、この旅のお供をしています。 |
N4 | これは1300年以上も前に、今でいう中国からインドまで苦しい旅をした一行の、その旅の途中の物語です。 |
| ナレーター幕中へ引く。上手より猪八戒登場。 |
猪 | くんくん。あっちの村から何かうまそうなにおいがするぞ。こりゃー、肉まんのにおいかな。もうたまらねー。腹がなるぜ。おーい、おししょう様、悟空のあにき、悟浄のあにき、早く早く〜。 |
| 続いて孫・沙・三登場 |
孫 | おいおい。八戒、ちょっと待てよ。 |
沙 | 食い物のにおいにつられて一人でどんどん先にいっちまうんだから。 |
三 | ほっほっほ。八戒ときたら食べ物のことになると本当に目がありませんねえ。 |
猪 | そんなこと言ったって、ほらほら。(くんくんかぐ)おいしそうなにおいがするじゃありませんか。腹がなってしょうがありませんよ。 |
孫 | 何を言ってるんだ。おまえはのんきなやつだなあ。あの村には何か妖怪の気配がするぞ。 |
沙 | たしかに怪しい気配。おししょう様、あまり近づかない方がいいかもしれませんよ。 |
三 | 妖怪?もし悪い妖怪が村人を苦しめているのなら、助けてあげなければいけません。それが仏の道です。行ってみましょう。 |
猪 | 行ってみましょう。行ってみましょう。肉まんが待ってますよ! |
孫 | やれやれ八戒にはかなわんなー。 |
沙 | ほんとにいやしいやつだなあ。 |
三 | 八戒は、いつか食べ物のことで失敗をしてしまうかも知れませんねえ。 |
| 一同下手へ去る。幕が開く。村人家族4人、肉まんをふかしている。 |
■ | <2> |
父 | やれやれ、あともう少しで、肉まんができるな。 |
母 | そろそろ、あの悪党妖怪たちがやってくるころね。 |
姉 | あの妖怪たちが来てから、この村はさびしくなってしまって・・・。 |
妹 | 何とかやっつけることはできないかしら。 |
父 | 私たちの力では、あいつらは勝てない。困ったことだ。 |
母 | でも、せっかく作った肉まんも、妖怪たちに食べさせないといけないなんて・・・。 |
姉 | もう、わたしたちが食べるものもないのに・・・。 |
妹 | あ(下手を指さす)白牛王と黒牛王がきたわ。 |
| 下手より妖怪白牛王・黒牛王登場。村人すわって妖怪に頭を下げる。 |
白 | おい。おれたちの食い物はできたか。 |
黒 | また、今日も食いに来てやったぞ。 |
父 | はい、この通り肉まんができています。 |
母 | でも、これがわたしたちに用意できる、最後の食べ物です。 |
姉 | もうこのうちには小麦粉も肉も野菜も何もないのです。 |
妹 | 私たちはもう明日から草の根っこをかじって生きるしかありません。 |
白 | そうか。お前たちは草の根っこでも木の葉っぱでも好きなものを食べるがいい。 |
黒 | おれたちは、お前たちを一人ずつ順番に食ってやることにする。(白黒いっしょに)わっはっはっは。 |
白 | さあて、誰から食おうか。 |
黒 | 最初はお前からだ! |
| 白黒、村人妹を両側からはさんで、両手をつかむ。 |
父 | ああ、なんて事だ。お助けを! |
母 | おやめ下さい! |
姉 | なんてひどい! |
妹 | 誰か助けて! |
■ | <3> |
| 三蔵一行上手より登場 |
三 | お待ちなさい! |
白 | 何だ。お前らは。 |
黒 | おれたちのじゃまをしようってのか? |
孫 | おうおうおうおう!さっきから見てりゃ、弱いものいじめをしやがって! |
沙 | お前たちみたいな悪党妖怪はおれたちがやっつけてやる! |
猪 | そうとも!そして肉まんはおれがいただく! |
白 | 何だと! |
黒 | やれるもんならやってみろ! |
| 戦い始まる。黒白と孫沙戦う。白黒やっつけられる。 |
白 | いててててっ!ちくしょう! |
黒 | おぼえてやがれ! |
| 白黒下手へ去る。 |
父 | お坊さま、みなさま。 |
母 | あぶないところをお助けいただいてありがとうございます。 |
三 | 私どもは仏につかえる身、当たり前のことをしたまでのことです。 |
姉 | さあ中でお休みください。 |
妹 | どうぞどうぞ |
孫 | ありがとうございます。 |
沙 | おじゃまします。 |
■ | <4> |
| 中幕、両側から閉まる。真ん中に「蓮花洞」の看板。中幕前下手から白黒登場 |
白 | ちっくしょう。ひどい目にあった。 |
黒 | 何とかやつらを痛い目にあわせてやろう。 |
白 | そうだなあ。何かいい方法は無いか? |
黒 | (看板に気づいて)おっ!ここは蓮花洞じゃないか。 |
白 | おお、こいつは運がいい。手助けをたのもう |
黒 | おーい。金角、銀角! |
| 中から金銀出てくる。 |
金 | だれだ。おれ達をよぶのは。 |
銀 | お、白牛王に黒牛王か。何の用だ。 |
白 | おう、久しぶりだ。500年ぶりかな? |
黒 | 実はな、坊主とサルとカッパとブタにやられちまったんだ。 |
金 | 何、そいつらの話なら聞いたことがあるぞ。 |
銀 | たしか大唐国から天竺へ経文を取りに行く徳の高い坊主のはず。 |
金 | ふっふっふ。坊主を食うと1000年長生きできるというぞ。 |
銀 | 久しぶりに坊主を食ってみるか。 |
白 | だが、やつら強かったぞ。 |
黒 | 何かいい方法はあるか。 |
金 | まかせておけ。 |
銀 | (蓮花洞からひょうたんを出してくる)このひょうたんを使って・・・ |
| 金銀、小声で白黒に何やらひそひそ話す。 |
白 | (大きくうなずいて)なーるほど。 |
黒 | そいつはいい! |
皆 | (金銀白黒声を合わせ笑う)ふっふっふ。わっはっは。うわーっはっはっは。 |
N1 | さて、4人の妖怪たちはいったいどんな悪だくみをしたのでしょう。 |
N2 | 実は、あのひょうたんは何と、人を吸い込むひょうたんなのです。 |
N3 | 名前をよばれて、返事をすると吸い込まれてしまうのです。 |
N4 | あのひょうたんのために、大変なことが起きてしまいます。 |
■ | <5> |
| 中幕開く、村人4人と三蔵一行すわっている。金銀下手より登場。 |
金 | ごめんください。こちらに徳の高いお坊さまがいらっしゃるそうで。 |
銀 | 一目お会いしたいのですが・・・。 |
父 | お坊さまは中にいらっしゃいます。 |
母 | どうぞ。お入り下さい。 |
姉 | 私たちは外に畑仕事に行きます。 |
妹 | どうぞ。ごゆっくり。 |
| 村人達下手へ去る。金銀、中へ。 |
金 | (三蔵の前にひざまずく)三蔵法師様。私どもはこの近くに住む、金角、銀角という妖怪です。これまで、たくさん悪いことをしてきました。 |
銀 | ですが、これからは心を入れかえ、仏の道にお仕えしたいと思います。どうかお弟子にしていただけないでしょうか。 |
三 | そうですか。この3人の弟子たちも、もとは悪い妖怪でしたが、今は私の旅の共をしています。あなたたちも、ともに仏の道にお仕えしましょう。 |
金 | ありがとうございます。(ひれ伏す)兄弟子のみなさんは大変お強いとお聞きしました。 |
銀 | ぜひ、お名前をおうかがいしたのですが。 |
孫 | おう!オレ様は斉天大聖(せいてんたいせい)孫悟空様よ。 |
沙 | おれの名前は、けんれん大将沙悟浄だ。 |
猪 | おいらは、てんぽう元帥猪八戒という。 |
金 | 兄弟子のみなさん。これからよろしくお願いいたします。 |
銀 | (ひょうたんの栓をぬいて)孫悟空様! |
孫 | おう。(返事をしたとたん、ひょうたんに吸い込まれる)あ、うわーっ! |
沙 | あれ?悟空の兄貴、どこへ行ったんだ? |
金 | (ひょうたんを持ち)沙悟浄さま! |
沙 | おう。(やはりひょうたんに吸い込まれる)あ、しまった! |
猪 | あれ?二人とも、どこかに消えたぞ。 |
三 | あ、あのひょうたん!二人とも返事をしたとたん、あのひょうたんに吸い込まれてしまった! |
銀 | 猪八戒様。 |
猪 | 返事はしないぞ。 |
三 | 心を入れかえたとは真っ赤なウソ!お前達はいったい? |
金 | ふふ、ばれちまったか。しょうがねえ。 |
銀 | (後ろを向き)おい、お前達もでてこい。 |
■ | <6> |
| 白黒、下手より登場。 |
白 | ふっふっふ。だいたいうまくいったようだな。 |
黒 | 残っているのはブタ一匹。どうにでもできる。 |
猪 | 何!おれ一人でもやっつけてやる。 |
金 | 一人でおれたち4人に勝てると思っているのか? |
銀 | それより、おれたちの家来にならないか? |
白 | あちこちの村からとってきた食い物もいっぱい食わせてやる。 |
黒 | どうだ。悪い話じゃないだろう。 |
猪 | わかった。家来になる。そのかわり肉まんは全部おれがもらってもいいか? |
金 | なかなかものわかりのいいやつだ。肉まんは全部お前にやろう。 |
銀 | そのかわり、家来になったしょうこに、その坊主をしばりあげろ。 |
| 八、なわで三をしばる |
三 | ああ。八戒よ。お前は・・・。 |
白 | よーし。いいぞ。 |
黒 | あいつらもしばり上げよう。(村人達を連れてきてしばる) |
金 | さーて、こいつら、煮て食うか、焼いて食うか。 |
銀 | まずは坊主から、鍋にして食うってのはどうだ。 |
白 | そりゃいい。大鍋を用意しに行くか。八戒見張ってろ。 |
黒 | それから、ひょうたんの中の奴らは2〜3日で溶けるから、それまでふたをとるんじゃねえぞ。 |
猪 | わかった。 |
■ | <7> |
| 金銀白黒下手へ去る。猪は肉まんを食べようとする。 |
父 | 八戒さん。お仲間を助けないんですか?肉まんのためにお仲間を見すてるんですか? |
母 | 仏にお仕えする身なのに、お仲間よりも食べ物の方が大事なんですか? |
猪 | そんなこと言ったって、食べ物は大事だ。食べ物がなくっちゃ生きていけないだろう。(肉まんを食べようとする) |
姉 | 八戒さんは、やっぱり何度生まれ変わっても人間にはなれないでしょうね。 |
妹 | きっと、カマキリやクモのように、親子も仲間もなく、共食いしあうような生き物に生まれ変わるでしょうね。 |
猪 | う・・・。(肉まんをおろし、いったん食べるのをやめる) |
父 | たしかに食べ物は大事だが、仲間どうしお互いに助け合うのはもっと大事なことなんですよ。 |
母 | うちののきに住むツバメだって、ヒナを見捨てて自分だけ食べ物を食べるようなことはしませんよ。 |
姉 | 裏山に住む、山犬たちだって、食べ物を分け合い、助け合って生きてますよ。 |
妹 | それなのに八戒さんは、仲間を見捨てて、自分だけ肉まんを食べて平気なんですか? |
猪 | うるせえ!おれは腹がへっているんだ!(肉まんたべようとする) |
三 | お待ちなさい!八戒!それを一口でも食べたらお前はもう決して人間にはなれません。死ぬまでみにくい妖怪のままです。それでいいのですか?! |
猪 | (肉まんを見つめる)これを食べたら、もう人間になれない・・・。(しばらく考え、決意したように肉まんを投げ捨てようとするが、やっぱりやめてふところに入れる)おししょう様!私が悪うございました。(三蔵や村人達のなわをほどく) |
父 | 八戒さん・・・。 |
母 | ありがとうございます。 |
■ | <8> |
猪 | (ひょうたんに向かい)兄貴たち、まだ溶けてねえだろうな。今出してやるからな。(ひょうたんのふたを取る) |
| 孫悟空・沙悟浄出てくる。 |
孫 | おう!やっと出ることが、できたぞ!お、あの悪党妖怪ども、いなくなってるじゃないか。 |
沙 | (八戒に)お前が一人で追っぱらったのか?たいしたもんだなあー。 |
猪 | え、まあ、そのーーー・・・。 |
姉 | くわしいお話をしているヒマはありませんよ! |
妹 | もう、あいつらが帰ってきましたよ。 |
孫 | よーし!おれたちにまかしておきな! |
沙 | ひとまとめにしてやっつけてやるぜ! |
| 金銀白黒、下手より登場 |
金 | ああっ!こりゃどうしたんだ! |
銀 | サルとカッパまで出てきてるじゃねえか! |
白 | ちゃんと見張ってろって言ったのに! |
黒 | ちくしょう!みんなやっちまえ! |
| 戦い始まる。やがて孫悟空達が勝つ。 |
■ | <9> |
孫 | さあ、この悪党ども、とどめをさしてやるぞ! |
沙 | 覚悟はいいか!(二人ぼうで襲いかかろうとする) |
三 | お待ちなさい!殺生はいけません! |
孫 | でも、おししょう様。 |
沙 | こいつらまた悪事をはたらくかもしれませんよ。 |
三 | 妖力を封じるお札があります。これを背中にはりなさい。(孫・沙、お札を妖怪達にはる) |
金 | もう、参りました。 |
銀 | おゆるしを |
白 | 二度と悪いことはいたしません。 |
黒 | 自分たちでまじめにはたらきます。 |
父 | やれやれ、これでやっとこの村も平和になる。 |
母 | みなさん。本当にありがとうございました。 |
孫 | よかったですね。 |
沙 | これからもみんな仲良くらしてくださいね。 |
猪 | 最後に・・・この肉まん食べてもいいですかね? |
姉 | どうぞ、どうぞ。 |
妹 | ご遠慮なく。 |
猪 | いただきまーす。(一度に食べ過ぎてむせる)う、ぐほっ、ぐほっ。 |
父 | (猪の背中をとんとんたたきながら)しっかりしてくださいよ。 |
母 | ゆっくり食べて下さいな。 |
猪 | あーびっくりした。死ぬかと思った。 |
姉 | まあ、八戒さんたら。 |
妹 | 本当に食いしん坊ね! |
三 | はっはっはっはっは。 |
孫 | (沙・猪もいっしょに)はっはっはっはっは。 |
皆 | うわーはっはっはっはっは。 |
三 | それでは、天竺への旅を続けましょう。 |
| BGMガンダーラ。一行下手へ去る。再び全員登場し手を振りながら幕。 |