劇:三年とうげのあまのじゃく
役 名 |
(魚売り一行) じいさん 孫1 孫2 (あまのじゃく) 赤角 青角 黒角 (修験者一行) 師匠 弟子1 弟子2 (姫一行) 姫 けらい 強さむらい (村人たち) 村1 村2 医者 (元気じいさん元気ばあさん) 元1 元2 元3 |
【1】幕前 | |
(BGM「転ぶでないぞ」。曲終わると幕前のステージ中央にナレーター3人登場) | |
ナ1 | ある所に,三年とうげとよばれるとうげがありました。(とうげのようすアドリブで) |
ナ2 | (とうげの景色アドリブで) |
ナ3 | (とうげの景色アドリブで) |
ナ1 | でも、このとうげには、ここで転ぶと三年しか生きられないという言い伝えがあったのです。 |
ナ2 | だから、ここを通る人はみんな、転ばないようにおそるおそる歩きました。 |
ナ3 | おまけにここには・・・(あまのじゃく3人、ものかげから登場)・・・悪いあまのじゃくたちも住んでいたのです。 |
(幕 開く) | |
【2】魚売りのおじいさん | |
(BGM「転ぶでないぞ」。下手より、じば孫の3人登場。魚を売りに行くため、おそるおそる通る。あまのじゃく3人、それをものかげで見ている) | |
じい | いいか、転ばないように気をつけるんじゃぞ。 |
孫1 | ここで転んだらほんとうに大変ですからね。 |
孫2 | おじいさんもおねえさんも気をつけてね。 |
(3人が上手へさると、おまのじゃく3人出てくる。) | |
おい、今の三人、見たか。 | |
青角 | 見たぞ。ずいぶんこわがって歩いてた。 |
黒角 | ここで転べば三年きりしか生きられないそうだからな。 |
赤角 | おい、へっへっへ。あいつらをわざと転ばせたらおもしろいんじゃないか。 |
青角 | そりゃあ、おもしろそうだ。やろうやろう! |
黒角 | そうだ、このカクレミノを使えば、すがたが見えなくなるからな。 |
(赤角カクレミノ着て待ち伏せ。じば孫上機嫌で帰ってくる。) | |
孫1 | 今日は、魚が全部売れて、ほんとによかったわ。 |
孫2 | そうだよね。がんばった、かいがあった。 |
じい | その通りじゃ。 |
孫1 | それじゃあ、きょうはおいしいごちそうを作って食べましょう。 |
孫2 | そう聞いたらおなかがすいてきた。急いでかえろうよ。 |
(赤角、じいさんを転ばす。) | |
じい | あ、しまった。 |
孫1 | お、おじいさん。 |
孫2 | だいじょうぶ? |
じい | けがは、しなかったが・・・。わしはもう、三年きりしか生きられぬ。 |
孫1 | おじいさん。しっかりして。 |
孫2 | きっとだいじょうぶだよ。 |
じい | だめじゃ、三年峠でころんだからには、三年きりしか生きられぬ。 |
孫1 | おじいさん・・・。 |
孫2 | 元気を出して。うちまで帰ろうよ。 |
じい | わしはもうだめじゃあああ・・・。(泣く) |
(じ孫、下手へ去る) | |
【3】修験者のししょう | |
(あまのじゃく出てくる。) | |
天3 | わっはっはっはっは。 |
赤角 | やったぞ。あのじいさん、いい年して、泣いてたぞ。 |
青角 | おれたちは、人がこまってるのを見るのがだいすきだ。 |
黒角 | おもしろいおもしろい。次はお前(青角)がやってみろ。 |
(青角カクレミノ着て、待ち伏せ。上手より、修験者一行やってくる。) | |
師匠 | さて、このとうげのむこうの里をすぎて、右へ行けばしゅぎょうの山につくのだっ。 |
弟1 | へえ、そうですか。もうおいらはつかれてヘトヘトですよ。 |
弟2 | おいらももう、はらがへって動けませんよ。ここらでゆっくり休みましょう。 |
師匠 | ばかもーん。おまえたちはしゅぎょうがたりん。これぐらいのとうげ、一息にのぼれるではないか。 |
弟1 | いや、このとうげはゆだんできませんよ。ここで転んだら3年きりしか生きられないそうですよ。 |
弟2 | そうそう、それにこのとうげには、悪さをするあまのじゃくどもが住んでいるそうですよ。 |
師匠 | だからお前たちは、しゅぎょうが足らんというのじゃ。わしのようにしゅぎょうをつんでいれば、何がおきてもあわてないし、何が出てきてもこわくないのだ。さあ、行くぞ。 |
弟1 | へいへいわかりました。おししょうさまは、たいしたものですねえ。 |
弟2 | まあ、ころばないように気をつけていきましょう。 |
(修験者たち、とうげを歩き出す。青角、師匠を転ばす。) | |
師匠 | あ、しまった。 |
弟1 | お、おししょう様。 |
弟2 | だいじょうぶでございますか? |
師匠 | けがは、しなかったが・・・。わしはもう、三年きりしか生きられぬ。 |
弟1 | おししょう様。しっかりしてください。 |
弟2 | 何がおきてもあわてないと言ったじゃありませんか。 |
師匠 | だめじゃ、三年峠でころんだからには、三年きりしか生きられぬ。 |
弟1 | おししょう様。 |
弟2 | がんばって、とうげをこえましょう。 |
師匠 | わしはもうだめじゃあああ・・・。(泣く) |
(修験者たち、下手へ去る) | |
【4】強いさむらい | |
(あまのじゃく出てくる。) | |
天3 | わっはっはっはっは。 |
赤角 | やったぞ。さんざんえらそうなこといっても、泣いてたぞ。 |
青角 | ほんとにこれはおもしろい。 |
黒角 | よーし、次はおれがやってみよう。 |
(黒角カクレミノ着て、待ち伏せ。上手より、姫一行やってくる。) | |
強侍 | 姫、このとうげのむこうの里をすぎて、左へ行けば、めざす城に着きます。あともう一息です。 |
姫 | 長い旅だったわね。もうすっかり疲れてしまったわ。 |
家来 | お侍さま、少し休んでいきませぬか。 |
強侍 | はっはっは。お二人とも、あともう少しのしんぼうでは、ありませんか。少しがまんが足りませんぞ。 |
姫 | いえ、このとうげはゆだんできませんよ。ここで転んだら3年きりしか生きられないそうですよ。 |
家来 | そうそう、それにこのとうげには、悪さをするあまのじゃくどもが住んでいるそうですよ。 |
強侍 | お二人ともよけいな心配はいりません。私は度胸があるから、何がおきてもあわてないし、うでに自信があるから何が出てきてもこわくないのです。さあ、まいりましょう。 |
姫 | わかりました。強いおさむらい様といっしょで私も心強いですわ。 |
家来 | まあ、ころばないように気をつけていきましょう。 |
(姫一行、とうげを歩き出す。黒角、強さむらいを転ばす。) | |
強侍 | あ、しまった。 |
姫 | お、おさむらい様。 |
家来 | だいじょうぶでございますか? |
強侍 | けがは、しなかったが・・・。わしはもう、三年きりしか生きられぬ。 |
姫 | おさむらい様。しっかりしてください。 |
家来 | 何がおきてもあわてないと言ったじゃありませんか。 |
強侍 | だめじゃ、三年峠でころんだからには、三年きりしか生きられぬ。 |
姫 | おさむらい様。 |
家来 | がんばって、とうげをこえましょう。 |
強侍 | わしはもうだめじゃあああ・・・。(泣く) |
(姫一行、下手へ去る。あまのじゃく笑いながら出てくる。) | |
【5】あまのじゃくなかまわれ | |
天3 | わっはっはっはっは。 |
赤角 | やったぞ。さんざん強そうなこといっても、泣いてたぞ。 |
青角 | ほんとにこれはおもしろい。次はまた、おれにやらせてくれ。 |
黒角 | 何、お前、さっき一回やっただろう。 |
赤角 | そうだ、次は俺の番だ。かくれみのをよこせ。 |
青角 | 何だと、お前だってさっき、やったじゃないか、今度はおれの番だ。 |
黒角 | うるさい、おれがやるんだ!よこせ。 |
赤角 | 何だと!こうしてやる。(黒角をおして転ばす) |
青角 | わっはっは、ざまーみろ。(黒角をわらう) |
黒角 | うーん。こうなったら、二人ともやっつけてやる。(赤角、青角を転ばす) |
(3人とも転ぶ。3人はっとして顔を見合わせる。) | |
赤角 | しまった。三年とうげで転んでしまった。 |
青角 | もう、三年きりしか生きられぬ。 |
黒角 | おれたちはもうだめだー。 |
【6】村人、医者を連れてくる | |
(中幕開く、下手「ふもとの家」上手「元気じばの家」。「ふもとの家」で、みんな泣いている。あまのじゃくやってきていっしょに泣く。) | |
(村人1・村人2・医者が下手から出てくる。) | |
村1 | さあさあ、みなさん、泣くのはやめてください。 |
村2 | お医者様をつれてきましたよ。 |
医者 | 今日は、なんだか、とうげでたくさん人が転んだそうだが・・・。 |
村1 | はい、村のおじいさんに旅のしゅげんじゃとおさむらい様も転んだそうです。 |
村2 | それに、なんだかあやしいあまのじゃくたちまで転んだようですよ。 |
医者 | 今日にかぎって、一体どうしたのかのう? |
(孫12弟子12姫けらい、あまのじゃくをつれてくる) | |
孫1 | このあまのじゃくたちがいたずらをしたようです。 |
孫2 | かくれみのを着て、みんなをわざと転ばしたんだ。 |
弟1 | おまけに、自分たちまでころんでしまった。 |
弟2 | 悪いことをしたから、ばちがあたったんだ。 |
姫 | 泣いてるけど、少しはこりたのかしら。 |
家来 | おい、おまえたち、もうやるんじゃないぞ。 |
赤角 | ごめんなさい。 |
青角 | もうしません。 |
黒角 | 助けてください。 |
村1 | 何だ。お前たちのしわざだったのか。 |
村2 | それでたくさんの人が転んだんだな。 |
医者 | なるほど。では、まずはみてあげよう。 |
(医者、みんなのところを回って、すぐ診察する。) | |
村1 | どうですか。 |
村2 | なおりそうですか。 |
医者 | ちょっと転んだだけだから、みんな何ともないようだが・・・しかし・・・みんな、自分は三年きりしか生きられないと思いこんでいる。 |
村1 | はあ、なるほど、病は気からと言いますからね。 |
村2 | このままでは、ほんとの病気になってしまうということですね。 |
医者 | その通り。何か、この人たちを元気づける方法があればいいのじゃが。 |
(みんな「うーん」と考え込む。) | |
村1 | そうだ。とうげの近くに住んでる、長生きの元気じいさん、元気ばあさんたちをよんできたらどうだろう。 |
村2 | そりゃあいい。元気じいさんや元気ばあさんたちなら、きっとみんなをはげまして元気にしてくれるだろう。 |
医者 | じゃあ、よんでみよう。 |
村1 | おーい、元気じいさーん。 |
村2 | おーい、元気ばあさーん。 |
【7】元気じいさん元気ばあさん | |
(三人上手より出てくる。) | |
元1 | なんじゃなんじゃ。 |
元2 | わしらは元気ものじゃ。 |
元3 | どうして、みんな泣いているんじゃ。 |
医者 | じつは・・・・というわけなんじゃ。みんなをはげましてくれんかのお。 |
元1 | え?何だって、三年とうげで転んだら三年きりしか生きられないだって? |
元2 | それは、とんでもないかんちがいじゃ。 |
元3 | わっはっは。みんなわしらの話をきいてくれ。 |
(みんななきやんで、ききにくる。) | |
元1 | みんな、三年とうげで転んだら三年きりしか生きられないとは、大うそじゃ。 |
みな | ええー?! |
元2 | そうとも、三年とうげでいっぺん転べば三年生きられるのじゃ。 |
みな | ええー?! |
元3 | そう。10ぺん転べば30年。100ぺん転べば300年生きられるのじゃ。 |
みな | ええー?!ほんとにー? |
じい | え、3年きりしか生きられないんじゃないのか。 |
師匠 | いっぺん転べば3年生きられるというのか。 |
強侍 | それなら、転べば転ぶほど長生きできることになる。 |
元1 | はっはっは。わしらはいつもこのとうげで転がっておるのじゃ。 |
元2 | そう。そのおかげでこんなに元気に長生きできた。 |
元3 | 三人とも今年で百八才じゃ。 |
元1 | よし、久しぶりにまた転がるとするか。 |
元2 | みんな、よく見るんじゃぞ。 |
元3 | みんなも、いっしょに転がってみんか?(三人次々に転がり出す。) |
村1 | さすがは、元気じいさん・元気ばあさんたちだ。 |
村2 | わしらも、いっしょに転がるとするか。 |
医者 | こけて転んでしりもちついて、長生きするとはこりゃめでたい。 |
(BGM「えんやらや」次々にみんな転がる。みんな楽しくなっておどる。) | |
誰か | これでおしまい。 |
全員 | めでたし、めでたし。 |
(おどりながら幕) |