ワーファリン

(注: 以下の文章の中で、心房細動に対しては、2010年頃からは、ワーファリンでなく、DOAC(直接的経口抗凝固薬)が主に使われるようになっています。)

 この薬は、抗凝血薬(抗凝固薬)です。血管や心臓の中で、血栓(血のかたまり)ができるのを予防します。それにより、心臓病による脳梗塞を防いだり、人工弁を健全に保持したりします。
 健康な人の心臓や血管の中では血栓はできませんが、血管内で血液の乱流があったり、人工弁などの外的な物があったりすると、血栓が形成されることがあります。血栓ができるためには、血小板という血液中の小さな構成員のほか、凝固因子という血液中のタンパク質成分などが複雑にからんでいます。ワーファリンは、この凝固因子が活性化されて血栓が形成するのを阻止します。

 
 どんな病気の人がワーファリンを服用するのか
 最も多いのは心房細動という不整脈をもっていて、その中で主治医がワーファリンの投与が必要と判断された人です。高齢化社会の現在、ワーファリンを服用している人が、非常に増えていますが、その多くが心房細動の方です。心房細動プラスアルファで、ワーファリンをのんだ方がよい人が、投与されないままでいますと、心臓の中に血栓ができて、それが脳血管などに塞栓して、たいへんな脳梗塞をおこすことがあります。
 また、心臓に人工弁が入っている人も、ワーファリンを続ける必要があります(生体弁の場合は服用不要です。)
 さらには、心室瘤や肺塞栓症など、他のいろいろな病気でもワーファリンが投与されます。

 服用する場合の注意は?
 1 ワーファリンをのんでいる状態でけがをすると、血が止まりにくいので、危険な作業はできるだけ避けてください。雪おろしなどの高所での作業は、できるだけしないように私は患者さんに話しています。万一、けがをして止血されない状況になれば、ワーファリンを中和する薬はありますので、主治医に早く相談してください。
 2 ワーファリンは、他の薬との組み合わせによって、効果が強くなったり弱くなったりすることがありますし、他方の薬もワーファリンから影響を受けることがあるので、他の医師にかかるときは、必ず紹介状を持参して受診した方がよいです。
 3 ワーファリンは、各人によって投与量が全然違います。2mgでよい人もいれば、6mg必要な人もいます。また、同一人においても、その時々で、必要量が異なる場合があります。そのため、一か月に1,2回PT(プロトロンビン時間)などの採血を行って、必要量を決めていきます。
 (各人で投与量が大きく違う理由は、凝血に関連あるビタミンKが、腸内細菌で生成されるので、各人の腸内細菌の具合によって、ワーファリンの必要量が異なっていくということのほか、各人の食生活や併用薬などが複雑に絡んでいるためです。)

 ワーファリンをのんでいる人は納豆を食べない方がよい
 納豆(その中の納豆菌)は、ワーファリンの効果を減弱させると言われています。そのため、食べない方がよいのです。また、クロレラを健康食品として服用している人もいるそうですが、これもワーファリンの効果を抑えますので、飲用しない方がよいです。
 (なお、隣のばあさんみたいな人で、「心臓病の人は、納豆を食べない方がよい」、などと言っている人がいますが、それは間違いです。「ワーファリンを服用している人は、納豆を食べない方がよい」というのが正しい。)

 抜歯のときはワーファリンをやめなければいけないのか
 私の友人の歯科医、木村貞昭先生は、もう20年以上、ワーファリンを服用したままで、抜歯をしています。そして何ら問題はないとおっしゃっています。私は歯科のことはわかりませんし、歯科医の各人によっていろんな条件が異なるでしょうから、みんな一律とはいかないと思っていますが、できるものならワーファリンを中止しないで抜歯していただきたいものだと思っています。(僧帽弁置換した患者さんで、たった三日間ワーファリンを中止しただけで、重大な脳梗塞になった不幸な例を知っています。)
 さらには、胃のポリープをとるとか、他の手術をするとかで、ワーファリンの中止を考えなければならない場合もあります。「こういう場合はこうする」、といったガイドラインが出ていますので、ワーファリンの投与に慣れている医師なら、適切な処置や指導をするでしょう。主治医にしっかり相談してください。