検診で中性脂肪が高いといわれたあなたへ
住民検診で中性脂肪が150以上の人には、高いことを意味する*印がついてきます。
日本の医療の中での中性脂肪についての認識や評価については、いろいろ問題があると個人的に以前から考えをもっていましたが、後半に述べる研究論文を最近読んでからは、その意を強くすることになりました。これを機会に記しておきます。
(なお、私は日本動脈硬化学会とは何の関係もないし恨みもありません。またその種の製薬会社とも無関係であり個人的な陰性感情もないことをお断りしておきます。)
はじめに結論から書いておきます。
1.中性脂肪が少々高い、もしくは中ぐらいに高いからといって500以下ぐらいなら薬を服用する必要はないし、たいして気にする必要もない(生活習慣の是正は必要だろう)。
2.下記の研究結果が出たのだから、日本動脈硬化学会は可及的早急に、中性脂肪が500以下なら薬物治療は不要であることをガイドラインに明記するべきである。
結論は以上です。
以下、英語を読むのは苦痛の人は、そこは飛ばしてください。
日本動脈硬化学会のガイドラインでは、「中性脂肪の管理目標」を150以下、食後で175以下としています。いくら以上なら薬物を使用するべきとはそこには書かれていませんが、「(生活面の是正を行ったうえで)管理目標の数値以上なら、薬物治療を行う」、と暗に言っていると思いますし、実際そうしている医師も日本では多いかもしれません。
しかし、中性脂肪の医学に人種差があるのかどうか私は知りませんが、世界で最も信頼されている内科学の教科書、HARRISON’S PRINCIPLES OF INTERNAL MEDICINE(ハリソン内科学書)には、従来から「中性脂肪の薬物は500以上なら考慮する」、と書かれていて、これは最新の第21版(2022年発行)でも同じです。私はこの彼我の違いについて戸惑っているものですが、ある種の理由によってハリソン内科学書の方への信頼が強く、自分から中性脂肪の薬を出すことはまずありませんでした。
そういう中でこの11月に重要な研究論文が発表されました。The NEW ENGLAND JOURNAL of MEDICINE(ニューイングランド医学雑誌、週刊医学誌で世界で最も信頼されているもののひとつ)の11月24日誌上に載った、Triglyceride Lowering with Pemafibrate to Reduce Cardiovascular Risk(心血管系の病気を減らすためにペマフィブラート(商品名はパルモディア)で中性脂肪を下げること)という論文です(本研究の愛称はPROMINENT)。
詳細は省略しますが、1万人余りの患者(中性脂肪が200~499の人、人種は白人が85%、アジア系が6%など、男は50歳以上、女は55歳以上、2型糖尿病が約半分)を二つのグループに分け、半分の人たちにはペマフィブラートを投与、他の半分の人たちにはプラシーボ(偽薬)を投与。平均追跡機関3.4年で、中性脂肪の値は、もちろんペマフィブラート投与群で正常値に下がっていますが心血管系への罹患(心筋梗塞や脳梗塞など)や、全死亡の割合について、両群で全く差がなかった、という内容でした。
無意味な薬は出すべきでない、これは医療の原則であります。同誌同号に載っているEDITORIAL(編集者のコメント)においても、この結果から、心血管系の病気の予防のためのこの種の薬の投与は、行われるべきでない、と書かれています。
付記 中性脂肪が高い場合、一般生活面の軌道修正、つまりアルコールを控えめにする、肥満の人は減量を心がける、毎日適切な運動を行う、甘いお菓子などは控えめにする、などは大切なことです。これは多くの方々がすでにご存知でしょう。あまり高い人は膵炎の危険性や脂肪肝への関与があります。
2022.12月