「肺年齢」って何様なの?

人の命を守り、幸福を与えるべき医療が、浅はかな手段により、人を悲しみの底に落としたり、無用の薬を使わさせること、そんなことがあってはいけません。

先日、当院に通院中の患者さん(74歳・女性)からこんな話を聞きました。

以前から他の医院にも通っているのですが、わけあって私がそちらの薬を見せてもらったところ、慢性閉塞性肺疾患(COPD)で使うOという吸入剤を使っていることがわかりました。

一瞬、私は不審に思いました。この人はタバコも吸わない、肺のX線写真も正常だ。さらに聞くとCOPDらしい症状(体動時の息切れなど)もない。

なぜ処方されているのか尋ねたところ、3か月前に、肺炎で某病院に入院し、回復期に肺機能検査が施行され、肺年齢が94歳でこの吸入薬が処方された-----

念のため当院で肺機能を再検したところ正常でした(「肺年齢」は71歳)。

その検査は、その時の体調や、ちょっとした手技(やり方)で、同じ人でもかなり違う結果が出る場合があり、この人のようにCOPDである確率が低い人(非喫煙者)で一回の検査で簡単に病気とみなし、薬を処方するのは間違いであると、私は思います。

今回の場合、一回の検査で病気とみなした某病院の医師、そして、その後も継続して処方していた医院の医師も軽率だったと思います。

ところで私が本当に言いたいのは少し別のことです。

10年ぐらい前から、肺機能検査(スパイロメトリー、肺活量・一秒量など)を行うと、末尾に「あなたの肺年齢は〇〇歳です」、と表示されるようになった。(年齢、性別、身長の3因子により、肺機能(一秒量)の正常値があり、検査の数字をそれに当てはめて、「肺年齢」を出す。)

「検査結果を患者に分かりやすく」、という趣旨で導入されたのでしょうが、上に述べたように、その結果は不安定性があり、特に異常値な場合は、後日再検するなど慎重に判断しなければならない。こういう大事なことを、医療側(医師や検診機関など)が念頭に入れてないことが多々あるようです。

そのため、先の患者さんのように、全くその病気がないのに、病気とされて不要の薬を処方されたり、肺年齢が「94歳」などと言われて、無用の不安や悲しみに沈むことになる。

私の考えでは、こうした間違いが少なからずあるところの「肺年齢」の表示は、やめてもらいたい。一回の不安定な検査で、「肺年齢」を宣告するのは傲慢です。「脳年齢」、「心臓年齢」、「大腸年齢」、そんな言葉がありますか? 肺を含めて、それぞれの臓器は、単純でない複雑な機能を持っていて、「その臓器の年齢」なんて決められるわけがない。

そして何よりも、冒頭で述べたように、人の命を守り、幸福を与えるべき医療が、浅はかな手段により、人を悲しみの底に落としたり、無用の薬を使わさせること、そんなことがあってはならないのです。

(H.29.Sep.)