日本の宿命 佐伯啓思 新潮新書 2013年 720円
 

  佐伯氏のスタンスは、もちろん左ではないその反対です。とはいえふつうの保守とはけっこう異なります。一般の保守は過度に情緒的だが、彼は論理的だからです。
 彼の思考に、私はかねがね敬意をもって本を読んできましたが、世の中が今のように、バカなナショナリズム---私はナショナリズムには一定の敬意を払うだろう。佐藤優氏がナショナリストであるという意味においてではあるが---が増えてきたことを考え合わせますと、佐伯氏の思想も、もう色あせてきたような気がします。
 だって、今からどうやって、日本独自の社会、日本独自の政治手法、日本独自の経済対策、その他諸々の、日本独自の方策を探ることが可能なのか?? 
 理想は佐伯氏の言うとおりと思う。でも、このグローバル化した現代では無理でしょう
 氏は、日本のこの百年の歴史はすべて、------すなわち日中戦争とその中身、あるいは太平洋戦争の開戦、中身、敗戦もすべて、と、私は受けとりましたが------、百年のすべてを、氏は「宿命」という名で肯定しています。しかしながら、歴史にIFはないにしても、、彼はそこで思想家には必須であるところの「批判精神」、その大切なものを捨ててしまった、私にはそう思えます。(保守系思想家は、結局、このようなプロセスをたどる。私の言葉では「堕落」していきます。まあ彼らからすれば、田舎の学校でちょっとだけ出来のよかったような私みたいな人間がそのように考えるのは、加藤周一や丸山真男など戦後民主主義の思考過程に、単純に洗脳されているからだ、という理屈にはなるのでしょうが-----。)

 彼のその論理---「日本の宿命」----を、私は正しいと思わない。(「宿命」の詳しい内容は、氏の本を読んでください)。
 藤原正彦のと同じように、過度のナショナリズムの本は、時代の中に順風を得て売れ行きもよくなっているのだろう。(ただし、保守系思想家といっても、佐伯氏は藤原正彦よりはずっと良質である。藤原は、数学者、エッセイ文筆家としては一流か二流かもしれないが、歴史への感覚と認識は、まったくひどい。) 

 しかし、佐伯氏は、この本では、思索家としての価値を、自ら低下せしめているように、私には思える。

2014 Jan.