開業後に診断した比較的珍しい病気
褐色細胞腫
 副腎の腫瘍で、重症の高血圧をきたす。この患者さんは一時血圧が300まで上がり、私も驚きました。超音波検査や血液検査で簡単に診断でき、すぐ手術のため紹介し、治癒しました。

オウム病
 インコなどの鳥類から人間に感染し、肺炎などをおこす怖い病気です。でも、正しく診断すれば、著効する抗生剤がありますので心配ありません。私がみた患者さんもまもなく治りました。
 この病気を経験した医師はそんなに多くはないでしょう。しかし、私はいつかこの病気に出会う気がしていたのです。はじめ、この患者さんは、インコなどの鳥は飼っていないと言っていました。しかし、私はなぜか(やや変わっている肺炎だったためか)、しつこく何回も尋ねたのです。そしたら、あとで「飼っている」、とおっしゃいました。当初は病気で脳も不調だったので、正しいことが言えなかったようです。
 病歴聴取のむずかしさを、改めて感じた次第でした。

再発性多発性軟骨炎(重い症状でした)
 この人の症状は、「息が苦しい、目の調子も悪い」、ということで当院を受診したのでしたが、耳(耳介)がグニャグニャで柔らかく、また鼻もペチャンコになっていました。私はすぐにこの病気であることがわかりましたが、本人の言によると、いくつかの病院医院を受診したけれど、病気の診断はされていないということでした。特効薬の副腎皮質ステロイドも投与されていませんでしたの、そうだったのでしょう。
 x線写真やCTでみると、気管もかなりペシャンコになっていました(軟骨が破壊される病気なので、気管も耳介も鼻もペシャンコ、グニャグニャになっていく怖い病気です)。
 すぐにステロイド剤を投与し、みるみるうちに改善していきました。
 もっと良くなるだろうと楽しみにしていた矢先、(たぶんこの病気とは関係のない)急性心筋梗塞になり、他病院に紹介しました。
 その後の消息は知りませんが、きっとお元気なことと思います。

バルサルバ洞破裂
 かすかな心雑音をきっかけに、超音波検査ですぐに診断できました。当初は自覚症状はありませんでしたが、他病院に紹介して間もなく、急速に悪化し手術されました。元気で今も仕事をしています。

心臓粘液腫
 胸が苦しいので当院に紹介されてきましたが、超音波検査で簡単に診断できました。左心房の中にできた腫瘍です。良性腫瘍ではありますが、何かと悪さをする場合もありますので、ふつうは手術が行われます。この人も手術で切除して、元気になりました。

ブルガダ症候群(植え込み型除細動器を必要とした症例)
 検診の心電図検査で、この病気の疑いでひっかかる方は珍しくありませんが、本当に治療しなければいけない人というのは、そんなには多いものではないかと思います。
 私が経験した方は、1年ぐらい前から高血圧で当院に通院していた30代の人でしたが、「先日、食事中に気が遠くなった」、とのことでした。心電図をとりましたら、以前のと異なるパターンで、ブルガダ症候群(coved型)の所見でした。食事中に気が遠くなるという症状は、ただならぬ異常であり、ブルガダ症候群による症状と推測しました。
 病院に紹介したところ、やはり私のみたてと同じであり、植え込み型除細動器が植え込まれました。もちろん今もお元気ですが、幸いなことに、除細動器はまだ一度も作動しておりません。

 筋委縮性側索硬化症(ALS)
 私の患者さんは、80歳を超えていました。心臓病でずっとみていた人でした。数ヶ月前から、疲れやすいとの症状があり、後で省みると、首をうなだれている姿勢がやや特徴的でした。
 神経内科の専門家がみれば、その時点でこの病気を疑ったのかもしれませんが、残念ながら私には無理でした。ある事情から、当院のことをたいへん信頼してくれていた方でしたので、様子をみていましたところ、ある日急に、自宅で呼吸が弱くなったとのことで、救急車で当院に搬送されてきました。
 なにはともあれ、人工呼吸器につけ、何の病気か改めて診察したところ、筋委縮性側索硬化症以外の何物でもありませんでした。
 この病気は、難病中の難病で、今後どこでみるか家族とも相談したところ、高齢でもあり、当院でずっとみてくれ、とのことでした。

 結局、4,5年間ずっと人工呼吸器をつけたまま、当院にずっと入院していました。最後は、併発症によって、天寿を全うされました。長い入院生活ではありましたが、互いに人間として信頼し合っている場での医療でしたので、この方の療養生活は、けっして悲惨ということはなかった、と今も思っています。
    
 亜急性甲状腺炎
 この病気は、すごく珍しいわけではありませんが、頻繁に遭遇するものでもありません。
 私は、2、3年に一度ぐらいで見つけていると思いますが、日常診療では、見逃されやすい病気の一つのようです(その証拠に、私が見つけたのは、ほとんどが当院に来る前に、2,3の医療機関を受診している方でした。ということは、私も見逃している可能性はあるでしょう。)
 この病気は甲状腺が痛くなるのですが、この場合「のどが痛い」、と述べる患者さんが多いようです。そうすると、医師はかぜと診断してしまうかもしれない。こういう経験から、「のどが痛い」と述べる患者さんに対して私は、のどのどこが痛いのか詳しく訊くようにしています。
 この病気は、医師が念頭にさえ入れておけば、見逃すことはなさそうな病気でして、血沈の異常な亢進や、病初期の甲状腺ホルモンの増加などにより、診断は困難でありませんし、適切な治療により、皆さん治ります。

 リウマチ性多発筋痛症
 この病気も、すごく珍しいわけではありませんが、日常診療では、見逃されないとはいえない病気の一つです。
 体のあちこちが痛くなる高齢者の疾患ですが、高齢者はこの病気でなくても、あちこち痛い人がいるので、「老化現象」として、処理されがちではあります。
 私は2年に一人ぐらいの割合でこの病気を見つけていると思いますが、同じ痛みとはいっても、体幹に近い部分の筋肉が異常に痛くなり、検査ではこれまた血沈が著しく亢進するので、医師の頭にさえ入っていれば、決して診断困難な疾患ではありません。
 副腎皮質ステロイドが著効し、患者さんは翌日から楽になり、非常に喜んでくれます。医者としての疲れが吹き飛ぶ瞬間です。
 なお、本疾患では、側頭動脈炎というややいやな病気が合併するということがあるそうですが、私の自験例では合併はありませんでした。

 成人スチル病