中国の大問題 丹羽宇一郎 PHP新書 2014年 800円
★★★
 

 ふつう、私はPHP新書は買いません。ナショナリズムの強すぎる本が多いから。
 でもこの本は新聞の広告で最近よくみますし、丹羽氏にはかねがね興味もありましたので買いました。そう、尖閣沖での漁船衝突事件のときの中国大使ですね(以前は伊藤忠商事の社長のちに会長。)
 尖閣国有化については、そのタイミングなどにきわめて大きな問題があり、氏はそれを強く何回も(外務省などに)指摘していたそうですが、一部のマスコミからは、「弱腰外交」、「媚中派」などと言われたほか、さらには「売国奴」と呼んだメディアもあったとか(どうせ産経新聞周辺か)。また、右翼からのあくどい嫌がらせもあったと書かれています。
 しかし、「日本人にありながら日本の国益を考えない人間は、まずいないはずだ」、と氏の言うとおりと思います。
 櫻井よしこ(ああ、気持ち悪い)など、「中国に対しては妥協はけっしてあってはならない」、と論調をはる人間が雑誌やTVでは多いが、そういう人たちは、日本の行く末をいったいどう考えているんだろう、と私はいつも思っています。二国間の地理的近さ、歴史、経済状況、これらを思っただけでも、いつまでもいがみ合っていては、どうしようもありません。
 しかも、丹羽氏が書いているように、世界の多くは、日本よりも中国の方に政治・経済的興味をもっているのです。日本はいま孤立化しつつある、といっても大げさではないはずです。右翼の人たちは、中国と対峙して日本をどこにもっていけばいいと考えているのか。とても本気とは思えません。----そういうところを私は「情緒的」というのです。
 丹羽氏の書いていることは、とてもあたりまえのことです(もちろん、少数民族問題や地方経済の問題など、中国を知り尽くしている丹羽氏ならではの諸々の知見はとてもためになります。)
 この本のような当然すぎる考え方、これが今の日本のメディアの傾向の中では、ややマイナーにみられる、もし本当にそうなら、この国の病気の進行度は、かなり深いところに到達している、と私はみなします。
2014 Jul.