とても心配なマイナ保険証

(令和6年9月にさきがけ新聞に掲載されたもの。
新聞では短縮されたり直されたりされていますが、こちらが私の原文。掲載については感謝しています)

  

今年12月2日から従来からの健康保険証を廃止し、マイナ保険証(マイナンバーカードによる保険証)のみにすることを政府は決定している(その後の最大1年間は経過措置として従来からの保険証も使えるらしい)。政府はマイナ保険証のメリットをいくつか挙げているが、私および多くの医療関係者からみれば、いくつもの欠点が考えられ、このまま強引に12月から従来型保険証を廃止することについては大きな不安をもたざるをえない。懸念される項目について以下に簡単に述べてみたい。

 ひとつ、行動能力の落ちた高齢者や認知症などの知的障がい者にとって市役所などに行って5年ごとにマイナンバーカードを更新するのは大変な負担である。

 ふたつ、医療機関での受付はマイナカードの顔認証で行われるが、本当に大丈夫なのか。例えば年々成長していく幼児・小児の場合でも問題ないのか。なお顔認証が首尾よくいかない場合、暗証番号が必要になるがこれを暗記してない人は少なくない。

 みっつ、マイナカードには医療情報の他、年金などの社会保障関連、税金関連の情報もはいっているらしいが介護施設などの入所者は施設にカードをあずけるはずで、まれなことではあろうが犯罪に利用される可能性があるのではないか。

 よっつ、カードの中の情報、他人に知られたくない病気のことなどプライバシーは大丈夫か。服用中の薬の情報も入っていて便利と国は言っているが、現行のお薬手帳の方が便利であるしリアルタイム情報で、マイナカードより優れている。

 まだいくつもあるが字数の限界なのでここまでにしておきたい。

 国がどうしてもマイナンバーカードを推進したいなら、希望者のみにした方がよい(英国がそうである)。諸々の国の制度は、役人や大企業の便利や利益のためにあるのではなく、精一杯日々の暮らしをしている一人一人の国民のためにあるはずである。マイナ保険証は上に述べたように各種の弱者にとってとても扱いにくいものだ。ぜひもう一度考えてほしい。

 多くの野党もマイナ保険証の強制には強く反対しているが国会での議論も少なかった。デジタルの時代要請があるとしても、何十年にもわたって国民の健康を守ってきた医療制度の主要点を、欠点があるにもかかわらず強引に変えようとする政府のやり方には強い憤りを感ずる。年内にも総選挙があるとうわさされているが、この問題については選挙の主要な争点の一つに今からでもするべきである。

 シェイクスピアは、とある劇の中で、「きれいはきたない、きたないはきれい」、と魔女たちに合唱させている。これにならって私も言おう。「便利は不便、賢いは愚か」、と。

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