高血圧の治療目標

「日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン 2019」 から

この4月に日本高血圧学会から、「高血圧治療ガイドライン2019」が発表されました。(これは5年に一度づつ改訂されています。)

このガイドラインで、最も注目されるのは、「降圧目標」が従来のものより、さらに低くなったことでしょう。今回、降圧目標は75歳未満の人では、診察室血圧が13080以下、家庭血圧が12575以下になりました。従来は、診察室血圧が14090以下、家庭血圧が13585以下ですから、両者とも、10mmHg 、目標が下がったわけです。(75歳以上では、従来は、診察室血圧が150140以下、家庭血圧が145135以下でしたが、今回のガイドラインでは、診察室血圧が14090以下、家庭血圧が13585以下になりました。)

たびたび治療目標が変わるのでは、患者さんのみならず、我々医療者側も戸惑います。とはいえ、高血圧学会が今回変えたのには、それなりの理由があるようです。SPRINT試験など、外国の臨床試験では、120mmHg以下や130mmHg以下など、厳格に下げた群の方で心不全死などの発生率が、統計上有意な差をもって良好な結果だった、ということ。SPRINT試験では、当初、予定追跡期間を5年としていましたが、結果がはっきりしたので、2年余りの追跡で中止されました。(130台後半で維持された群(人々)が、120以下の群に比べ不利益を被るわけで、こういう場合、追跡は早々に中止されます。)

というわけで、今後、日本の医師はこのガイドラインに沿った降圧治療をしなければならないのでしょうか。その答えは、イエスとも、ノーとも言えないと思います。この際、注意するべき最大のポイントは、SPRINT試験などでは、患者を一人静かな環境において、自動血圧計で複数回測定した数字が用いられているが、日本ではそういう測定法はほとんど普及していなくて、安易にその研究での数字を日本の一般医療の場で応用するのは、問題があるということです。といっても、ガイドラインに示されたような「厳格な降圧目標」を、無視することもできない気がします。

私は個人的な考えとしては、
1.できるだけ適正な条件のもとで、外来血圧を複数回測定する。
2.
降圧目標で今回示された数字については、少なくともガイドラインで示された家庭血圧の数字は、そのとおりの目標にはしたい(家庭血圧は75歳未満では、12575以下にしたい)。
といったところです

日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン2019https://www.jpnsh.jp/guideline.html

SPRINT試験の概要と問題点http://therres.jp/pdf/opinion_20160517.pdf

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湯沢内科循環器科クリニック山本久