かぜ薬をのめば、早く治ると誤解している人がなぜ多いのか

 私はかぜの薬を出すとき、「あなたはかぜ薬をのめば、早く治ると思っていますか。」と、よく質問します。4分の3ぐらいの人が、「はい」、と言います。そこで私は、「それは違いますよ」、と言います。(大体はこのとき、患者さんはいやな顔をする)。でも、以下のような説明をすると、多くの人は納得してくれますし、「知らなかった」、といって、私の説明に感謝の意を表します。

 かぜ薬のこのテーマは、医学でもあり、人類学でもあり、社会学でもあります。単純ではない。
 人類学的には、かぜを含めて、何か体調が悪い場合、科学的に効くかどうかは別にして、何か薬を飲むなど、治療行為を受けなければならないと考えるのが、古今東西の人間の「習性」でしょう。現代人の多くも、この中にある。医学薬学が科学になったのは、ここ100年ぐらいでしょうから今でも多くの人が、自分ののもうとするかぜ薬が、「本当に効くのかどうか」など、特別に考えもしないでしょう。その辺は省略してとらえてますから、「効くだろう」と思ってしまうのでしょう。その気持ちは、私もわかります。
 次に、社会学的には、テレビその他のメディアにおいて、製薬会社によるかぜ薬の宣伝が数多く世に出されていて、そこでは巧妙に、「この薬で早く治る」、とは言われてはいませんが、「若くてきれいで、健康的な女優」が、薬を飲んだ途端に、元気な格好をして、そしてニッコリ笑って、「かぜ、早めに治しましょう。お大事に!」、などと言うのを何回も何回も放映されるのを見ている私たちは、いつの間にか洗脳されて、「おお、薬をのむとやっぱり早く治るんだ」、と思い込んでしまう、そういう滑稽な状況があるわけです。
 とすると、一部の人は、医者は本当はよく効く薬を、こっそりもっているのではないか、という誤解をもつことにもなるでしょう。(インフルエンザだけは特効薬がある。タミフルなど。)

 かぜを早く治す薬や方法があったら、私が教えていただきたいものです。
 巷で言われる治療法は、そのほとんどが科学的には効果がないでしょう。たとえば、にんにくを頭の上に乗せて眠ればいいみたいな俗説とか、ビタミンCをいっぱいとるとかのたぐいのことですが。
 科学的思考法の訓練を受けていない人は、「物事の発生の時間的順番」が一見理屈にあっていれば、『それによって治った』、と受け取る間違いをしがちですが、多くの医師など科学的思考のトレーニングを受けてきた人は、「物事の順番」と、「因果関係」とは別のものとして考えます。(医師の中にも、このような科学的思考をしない人が、いることはいます。しかしそれは問題です。)
 あまり面白くない話になりましたが、かぜのとき、体を温かくして、ゆっくり十分に休養をとる、これは昔から言われていることですが、現代でも同じように大事なことです。ゆっくり休むことによって、体内のエネルギーの多くを、「免疫」につぎ込むことができるからです。
 ただし、仕事を簡単に休めない人もいっぱいいますね(私もそうです)。そんな人はどうしたらいいのでしょう。上に書いたように、私は軽いかぜでは薬を飲みませんが、「おまじない」とわかっていれば、何かの薬を飲むのも、しょうがないとは思いますね。
 オダイジニ!

                   湯沢内科循環器科クリニック


かぜで薬や医者は必要か

かぜはどんなふうにして治るのでしょうか

 かぜをひくとすぐ医者に行く人もいれば、薬屋で薬を買ってのむ人もいます。もちろん、どうせ治るのだから、ということで放っておく人も少なくありません。
 私自身もかぜをひくことはありますが、ふつうのかぜなら、薬をのむことはありません(この25年間は、たぶんかぜの薬は飲んだことはありません)。体が丈夫だということもあるでしょうが、かぜ、あるいは各種の感染症を治す働き、「免疫」の絶大な力、精妙な働きを少しばかり知っているし、その力を信ずることができるからです。
 軽めのかぜは、一般的に医師の診療を受ける必要はありません。これをいうと、同業者からヒンシュクを買う可能性があるが、本当なので仕方ありません。

かぜの薬は、ふつうは対症療法です。解熱剤、咳止めなどの成分が入っています。どうしてもそういう症状を軽くしたいのであれば、この種の薬をのめばいいでしょうが、だからといってかぜが早く治るわけではありません。

 ただし、長びくかぜ、症状の強いかぜは、ぜひ受診しましょう。かぜではなくて、実は、肺炎だったり、ぜんそくだったりと、別の病気が見つかる場合があります。かぜの診療における医師の役割は、「かぜを早く治すこと」、ではなく、「ふつうのかぜ」なのか、別のものなのかを区別することにあります。
 どういうかぜだったら、受診した方がよいのかは、下記の図をご参照ください(日本呼吸器学会で出したものだったと思います。