★★★★☆ 入り江の幻影 新たな「戦時下」にて
辺見 庸 毎日新聞出版 2023
辺見氏は52歳まで共同通信社の外信部で活躍した人。47歳のとき芥川賞を受賞した。通信社をやめてからは、小説、ノンフィクション(「もの食う人びと」が有名)、さらには詩、社会批評など幅広い文筆活動をしてきた。60歳で脳出血をおこしてからは、おそらくは強めの半身マヒを後遺していて困難な生活を余儀なくされているようだが、旺盛な執筆活動は衰えることがない。いや東日本大震災の津波(氏は石巻の出身)や、長く続いた安倍政権など、困難な状況が続くこの国で、氏の濃密な文体と鋭い批評眼は、いっそうの冴えが感じられる。
この本「入り江の幻影」には、いくつかの散文詩、デイサービスでの自虐的な近況が書かれ、そして中心になるのは社会の諸問題に関する鋭い批評である。安倍晋三氏の国葬とその中での菅総理の弔辞、あるいはむりやり開催された東京五輪への感想や批評が印象的である。
彼の執筆の基本的スタンスは、2011年以降、次の言葉で端的に表されているだろう。「悲劇にあった人を救うのは、うわべの優しさではない。悲劇の本質にみあう、深みを持つ言葉だけだ。それを今も探している」。
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