高血圧と塩分
        経済面からも重要
          H.28年12月

秋田県や青森県は日本の中でも平均寿命が短い地域ですが、その原因は私が考えるに、塩分が多い、酒量が多い、この二つが主と考えます。タバコは健康にとてもよくないが、これらの県の人口当たりのたばこ消費量は別に多くはありません。

この稿では、塩分について考察します。
なお、ここ、2か月ぐらいの間、週刊ポストなどで、塩分制限なんか関係ない、みたいな記事が載ってますが、それは正しくない。週刊誌は「当たり前のこと」を書いても販売部数は増えません。「変ってること」、を書いて部数を伸ばそうとします。400円の週刊誌が、もし十万部多く売れれば、四千万円もうかることになります。一流出版社は、一流大学の文学部を出た人たちが多くいて、給料も高いのですが、良識が基本の出版社が、そんなあこぎな商売をして、ボーナスを稼ぐようではいけません。
ではその中で、塩分制限は必要なしと言っている医者、学者は何なのかという疑問がわくでしょうが、彼らは医学・科学の本流から外れた人たち、奇抜なことを言って、世間の目を集めたり、金を稼ごうとする人たちです。そういう人間は、首都圏にはいっぱいいるでしょう。週刊誌はそれを利用しているわけです。

塩分制限が大切なことは、医学の常識であり、世界の常識です。もし、この件について正道の意見を知りたければ、日本高血圧学会や、日本循環器病センターのホームページで勉強なさってください。

塩分過剰はなぜ体に悪いか

塩分が多いと血圧が高くなりやすい。もちろん体質によりいろいろ異なりますので、塩分を多く摂っても高血圧にならない人もいます。でも一般的には、塩分は血圧を上げるわけです。
ご存じのように高血圧の状態が長く続くと、動脈硬化が進んで脳梗塞になったり、脳出血したり、心臓や腎臓の病気にもなりやすくなります。
また、すでに心臓や腎臓の病気を持つ人は、塩分はその病気の直接的な悪化原因になります。

塩分摂取の調査方法

さて、厚労省では、国民の塩分の一日量の目標を8gにしてるはずですが、現実は今のところ、男が約11g、女が10gという調査結果が出ています。
しかし私は、この数字が真実か疑問を持っています。その理由は、調査方法です。調査される人たちにあらかじめ紙を渡しておいて、何月何日にあなたの食べた食品と量を記載してください、という調査。多くの人はその日は、塩分の少なめの食事をとるのではないか。わざと調査日に、塩鮭や筋子をいっぱい食べる人はいないでしょう。でも、他の日には食べているかもしれない。
だから、真実は調査の数字よりも高いのではないか。

塩分摂取量を推定するに最善の方法は、今のところ尿の成分でです。(クレアチニンで尿の濃さがわかり、同じ尿の中の塩化ナトリウムで摂取量が推定できる。)

秋田県での調査(上にあげた国による調査方法と同じ)では、たしか一日当たりの平均が12gと出ていたと思いますが、私が外来で尿で検査した、約200人をみれば、平均14gぐらいだったと思います。
私に住む湯沢地域が特別に塩分摂取が多いのでしょうか。いえ、たぶん違うと思う。日本の平均と、秋田県のものとでは、1〜2gしか違わないのですから、秋田県の平均と湯沢地域の平均が、2g違うことは考えられません。
結局、調査方法に問題あると考えます。だから秋田県の平均も14gぐらいと、私は推定しています。

食事は文化・伝統なので簡単には変わらない

ですから、もっと塩分制限はがんばるべきです。しかし食事は「文化・伝統」に根ざしているので、医者が患者さんに「塩分を少なくしてください」、といっても、実行している人は少ないのではないか。
でも、私が少年の頃、50年ぐらい前の時代に、塩分制限が大きい運動として存在し、効果を得たと記憶しています。県庁や市役所・役場などの地方自治体や、その頃の産業の中心であった農業業界などが、広報誌や保健婦、「家の光」などの業界誌を通じて、塩分制限の運動を推し進めていったはずです。私の推測では、その運動により秋田県の塩分摂取量は、一日、20gぐらいから、15gぐらいに減ったのではないかと思います。

塩分摂取は北国で多い。これは日本のみならず、世界中の傾向でしょう。人類の歴史の中で、つい4,5十年前までの数千年もしくは1万年以上、その中で北国の人類は、冬季には塩漬けの野菜、塩漬けの魚、塩漬けの肉(これは主にヨーロッパにおいて)、で栄養をとってきました。(狩猟や木の実拾いの食文化では、塩分は多くなかっただろう。塩分多量摂取文化は、農耕文化の中でのものかもしれません)。
しかし、冷蔵庫があり、、新鮮食品の流通も容易である今の時代、実際上は塩分は多くは必要ないのです。ただ、食事が、「文化・伝統」であるがゆえに、現代でも塩分摂取が多い。
私が外来で患者さんに塩分について注意すると、彼は言います。「おらあ、しょっぱ口だがらなあ」。つまり、小さいときから塩分の多い食事に慣れてきたから、医者がそう言っても無理だよと、暗に抵抗しているのです。(女の患者はあまりそういうことは言わない。表面上従順にしている。でも、心の中は男と同じでしょう)。
そういえば、数年前、東北地方のある知事が脳出血で入院しまして、それは軽症でよかったのですが、彼が仕事に復帰して間もなくの記者会見でいわく、「おれも今まではしょっぱ口だったからなあ」、と私の診ている患者さんたちと、まったく同じセリフを放っておられました。
ぜひ、県庁ぐるみで減塩運動を大々的に展開してもらいたいものです。長野県や新潟県はかなり熱心にやっているみたいですよ。


高血圧と医療費


 国の統計では、降圧剤の年間消費量は1兆円弱と発表されています。大変な額です。(2015年の国民医療費は41兆円)。
昔からある降圧剤は1錠10円ぐらいですが、新しめの降圧剤は、1錠100円以上するのがざら、中には200円以上のものもあります。安いものを中心に使っていくのが医療の基本だと思いますが、新しめの薬は、血圧を下げるだけでなく、臓器保護----腎臓や、心臓などにも好影響を与えると、大学教授たちの講演を聴く機会も多く、つい、そちらの高いほうも使いがちになります(高血圧の治療では、1種類の薬では不十分のことが多く、2、3種類を必要とする場合が多い。中にはどうしても6種類使わなければ目標に達しない患者もいる)。
こうして、一日の降圧剤の費用が一人当たり200円とした場合、200×365日=約7万円の年間費用になります。それを10年、20年、30年と長期にわたって服用しますから、莫大な医療費になるわけです。それでも脳卒中や心臓病や腎臓病を予防しているので、それらの大病になってしまってからかける医療費よりはまだ少ないのです。
国民全体がもっと塩分を減らして、薬をもっと減らせば、経済的にも少なからずの恩恵があります。
事実、英国では塩分を10%減らす運動を国民運動として行い、2005年から3年間で2600億円効果があったと発表されています。英国の人口は日本のちょうど半分ぐらいですから、日本においても、もっと本気の減塩運動への政策が行われれば、少なからずの経済的効果が得られるはずです。。

塩分制限の具体的方法


英国の減塩運動では、個々人が調味料などを控えめに使うことの他に、企業に働きかけて、加工食品の中の塩分を減らすことを重要視したようです。
日本においてもこうした工夫を国家・自治体ぐるみで大きな運動として行っていく必要があると考えます。
もちろん、個人的・家庭的には、調理を薄味にする、醤油などの調味料は控えめに使う、麺類の汁はある程度残す、などの方法があります。


(この内容は、H.28年12月に秋田市での、とある会で10分ぐらいお話ししたものです。)