なぜ原発は悪いか   (2012年の記)


 はじめに


私は言うまでもなく原発の専門家ではない。また、反原発の運動に参加したこともない普通の人である。
 しかし35年前から故高木仁三郎氏の数冊の本を何度も読み返してきて、、原発の何が問題かは理解してきたつもりである。残念ながらお会いしたことはなかったが、高木氏の考え方と生き方には、強い共感と深い敬意をいだいてきた。「市民科学者」としての彼の生きる姿勢は、町医者である私の生き方にも少しは影響を与えてくれたかもしれない。(----変な権威のない方が、しばしば真実に近づきやすいという点において。)
 311日以後、原発の問題に関しては数多くの本が出版され私も十数冊の本を読んだが、90%の内容はすでに高木氏の著作を読んでいれば、理解していたことだったと思う。とはいえ以下の方々の知識、意見も私にとってはたいへん勉強になり、共感をもつに至っている。



 小出裕章氏の本とDVDDVDS氏からいただいたもの)
 飯田哲也氏の本、とくに日本のエネルギー問題の現状と、近未来の環境エネルギーの可能性について(彼は高木氏と同様、一時、原発産業の中に身を置いた方である。)
 佐藤栄佐久・前福島県知事の本(我々の視野の外にある国家権力の、何という野蛮さ)
 池澤夏樹氏のとくに「春を恨んだりしない」の中の、「昔、原発というものがあった」の文章
 河野太郎氏の意見
 山本義隆氏の「福島の原発事故をめぐって」

すなわち、以下に挙げる「原発の悪」については、以上の方々の意見を私なりに消化吸収した上でのものである。
 

        原発の何が悪いか

1.核廃棄物・使用済み核燃料(これも強い放射能をもつ)を処理できないのに、どんどん作り続けている。

子孫に対して計りしれない負の遺産を残している。もともと地球には存在しない猛毒のプルトニウム239の半減期は2万4千年である。(放射能がたった半分になるのが2万4千年である!つまり、4分の1になるには4万8千年、ほとんどなくなる(1千分の1になる)には、24万年!です。青森県の地下300mだかに埋める予定らしいが、2万4千年後、青森県の地形がどうなってるか誰も知らないし、日本列島の形さえまるっきり変化しているかもしれない。「世代間責任」はいったいどうなるのか?!
ましてや、今しばらくの間は、プルトニウムなどの使用済み核燃料は、地下にはなく地上にあるのである。


2 地震大国日本に存在する原発。とても危険。

3 狭い日本では、フクシマ以上の破局があれば逃げる場所がない。つまり「日本沈没」、「民族離散」、そして一神教でもない日本人においては、「民族消滅」である。私は悲観的すぎるだろうか。でも、悲観的な状況で間違って楽観的な人間、彼らを私は「本当の愚者」と呼びたい。


4 長期的な意味で、人類は原発を扱える能力をもつのか(科学技術の問題として)。

5 経済的にもコストが高い(事故があることは、実は前提になっている。そうでなければ、原発を東京の東電の隣にに作ればよい。)


6 事故が発生しなくても、全然、「環境にやさしく」はない。各原発は大量の温湯を海に排出している。

7  事故が発生しなくても、下請け、孫請け、ひ孫請け会社の労働者でも維持されている、「差別的労働環境」は、許しがたい。

8 以上のような大きな欠点から免れることはできないのに、存続推進するためには「原発はよいものだ、安全だ」、と嘘をつかなければならない。そして、嘘は雪だるま式に増えていき、結局は今回のような破局に至った。

9 このような欠点があるのに、日本で原発が続けられるとすれば、 「なぜ日本で原発が廃絶されないのか」の項に書いたように、日本の隠れた中枢に、時代遅れの「大国主義者」がいるからである。ぜひ、民主主義の力で、そのような隠れた権力をつぶさなければならない。