★★★ 戦前回帰 「大日本病」の再発
          山崎雅弘  学研教育出版

山崎氏は、プロフィールをみると、戦史・紛争史研究家、と書かれています。氏の言う「大日本病」とは、日本が「大日本帝国」として、明治・大正の時代を過ぎ、昭和初期から敗戦まで続いた頃の日本全体の病であり、最終的には日本を破滅に至らしめた病のことです。

その時代の日本の指導者層(軍部、政治家、官僚、学者など)により鼓吹され、主として戦争を能率よく遂行するため、そして勝つために行われた「国体」思想です。これは私からすれば、「洗脳」そのものであり、マスコミも、大多数の国民も、それにつられて、「病」とも知らずに、破局に突き進んでいった。「大日本病」の具体的な症状について、山崎氏は歴史家ならではの力でもって、豊富な資料、数多いエピソードを挙げています。以下のような考えです。

・日本は、世界で他に類をみない神聖な国である。日本人は特別に優秀な民族である。

・人であることは、日本人であることであり、日本人であることは、皇国の道にのっとり臣民の道を行くことである。われらは、国体に基づく確固たる信念に生きることにおいて皇国臣民たりうる。

・大日本帝国は、万世一系の天皇皇祖の神勅を奉じて永遠にこれを統治したもう。これ、わが万古不易の国体である。この大義に基づき、一大家族として億兆一心(全国民が心を一つにして)、聖旨(天皇の考え)を奉体して(心に留めて)、よく忠孝の美徳を発揮する。これこそが、わが国体の精華とするところである。この国体は、わが国永遠不変の大本であり、国史を貫いて明るく輝いている。

 このような考えにより、各人は個人の人生のためではなく、国のため、天皇のために生きることを、強制されたわけです。そして、夜郎自大に、日本は万邦無比(世界に類をみない)の絶対的に崇高で偉大な国なのだ、と国の上層部は、言いふらした。さらに、著しい人命軽視や暴力性、攻撃性、不寛容など、戦前・戦中の日本人の、その前の歴史から隔絶したかのような、異常ともいえる思想と行動についても、当時の日本人が「大日本病」に罹っていたからだ、といえるとのことです。

では、「大日本病」を危ないもの、国を破滅させるものとみている山崎氏が、なぜ今になってわざわざこの本を世に出したのか。その理由は、二つあるようです。(その二つは重なりますが)。

一つは、今の日本の政治を司る安倍首相やその閣僚、その仲間、その支援者たち(日本会議のメンバーなど)が、上のような戦前の日本を肯定的にとらえていること。
もう一つは、戦後、日本人の多くは敗戦について、「軍国主義」の暴走ととらえ、それ以上は思考停止になりがちでしたが、破滅に導いた根源は、軍国主義よりも深層にある、「大日本病」そのものである、と山崎氏はみなしていること。

そしてこの問題性を一人でも多くの日本人に認識してもらわなければ、また同じ失敗をする可能性があろう、という危機感が山崎氏の執筆の動機と思います。
たいへん中身の濃い本ですが、むずかしくありません。ぜひ、多くの人に読んでいただきたいと思います。