去年(2015)読んだ本から
                   (文芸編)

2015は、自分としては、小説も比較的多く読んだ年であった。みな過去の本ではあったが。そのいくつかをあげると---。

カズオ・イシグロの小説
 彼の名は知っていたが、小説は今まで読んでなかった。読み始めたら最後まで読ませる才能が彼にはある。その点では、村上春樹や夏目漱石などと同じだ。テーマが一作ごとに異なるのも面白い。
 読み始めたきっかけは、英語週刊誌に、彼の新作「忘れられた巨人 The buried giant]の紹介記事が、3〜4ページにわたって載っていて、彼が英語圏でメジャーな作家であることを知ってからである。

 ★★★★ 「わたしたちが孤児だったころ When we were orphans」 
2000
主な舞台は、主人公が幼少時期に住んだ上海。サスペンスとノスタルジーに富んで楽しい
 
★★★★ 「私を離さないで Never let me go」 2005
 これほど感動した小説はあまり記憶がない。この本から受ける感想は、人ごとに大きく異なると思うが、私自身は、「命のはかなさ」、「老化」、「死」についての考えが、この本なしでは済まされなくなってしまった。
 怖いSFだが、一方で愛にあふれ、友情にあふれた、切ない青春小説でもある。カズオ・イシグロよ、ありがとう。

★★★★ 「日の名残り The remain of the day」 1989
 彼の出世作である。切ない恋物語だが、背景もよい。戦前の英国のエリートたちである。

★★★ 夜想曲集
 品のいい?短編集

★★ 「遠い山なみの光」 1982
イシグロが5歳までいた日本・長崎の心の情景をたどったものか。

★★「浮世の画家」 1986 
 
なお、「充たされざる者」 1995と、「忘れられた巨人」はまだ完読してません。
以上、カズオ・イシグロでした。

★★★★ 「華麗なる一族」 1972?
 2014年に山崎豊子は亡くなったが、この本はまだ読んでなかったので、遅ればせながら読みました。感動しました。金融界の裏側という、我々には縁のない世界を描いていますが、氏の取材力には、いつもながら感嘆させられます。かわいそうな鉄平。天国はあなたのものだ。

★★ 「1Q84 」  村上春樹

遅ればせながら今年の1月ごろ読みました。村上氏の小説は、「ノルウェイの森」までは、時々読んでいましたが、その後「海辺のカフカ」を途中でやめたのを機に、しばらく読まないでいました。その小説は、なぜ主人公の名が、百年前のプラハの作家兼労働保険事務職員のカフカと同じ名前なのか疑念がわいたし、もともと、村上氏の小説が特別に何かがいいのか、私にはわからなかったからです。過去(青春の時期)に失った事項や人間について、その意味をたどって行くというような、みな似ているストーリーみたいで。恋愛小説なら渡辺淳一がさえていたし(笑ってください)、時代精神の深層を小説で表現するなら、村上龍が優れていた。
 専門家(文芸評論家など)の中でも、氏については評価が二極に分かれているのが特徴らしいですが---
 去年(2014)、H君と飲んでいて、彼は氏を評価していたようなので、あるいはそれとは別に、内田樹氏も村上さんを評価しているので、遅ればせながら、「色彩をもたない多崎つくると、彼の巡礼の年」を読んでみたら、まあ面白い、と思った。そこで、以前、話題になった、「1Q84」を買ってみたのです。「カフカ」にしろ、「1984」にしろ、あまりにも有名な人間や小説名をもじっているので、私は反感を感ずるのですが-----

感想:最後まで読ませるstory tellerであることはわかりますが、「感動」はしませんでした。私には、その良さを理解する力はないようです。さらに枝葉のことをいえば、青豆(主人公の一人の若い女性)が、ある重要な行動をした後、公衆トイレで「長い放尿をした」というところがありますが、何でそういう文章をいれるのかわかりません。男が長い排尿しても、面白くもなんともないわけですから、女からしたら、こんな文章は、意味のない、屁にもならないことになるはずですが----。一般にフェミニズム系の女性群たちは村上氏を評価してないわけですが、次元の低い話で申し訳ありませんけど、こういうところも低評価の一因なのか。女からみたら、その恋愛物語にも、フェミニズム的問題がありそうです。