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NHKはなぜ反知性主義に乗っ取られたのか

           
上村(うえむら)達男 
          東洋経済新報社  2015



上村氏は2012年3月からから、2015年2月までNHK経営委員を務められ、その前は早稲田大学の法学部長でもあった人です。
 籾井NHK現会長は、就任記者会見の2014年1月の席で、報道にもあったように、「(NHK国際放送について)政府が右と言ってるものを、我々が左というわけにはいかない」、と言って、早々に物議を醸し出した人です。
 その時の批判にもあったように、これは、「NHKの政治的中立」という基本からは、大きく逸脱する考えです。NHKは政府の広報機関とは違うのです。もし、籾井氏の言うとおりであれば、NHKは北朝鮮の放送局と同じになり、報道の自由はなくなります。
 こういう、報道機関としての、基本中の基本を分かってない人間が、NHK会長になるという、今の日本は、嘆かわしい、あるいは恐ろしい社会になっている。

この本では、籾井氏の個人的資質について、その不適性が数多く挙げられていますが、本来、法学部長までいった上村氏が、一個人のマイナス面を自著に羅列するなど、とうてい好き好んでやっていることとは思えません。しかし、会社ガバナンスを専門とする一学者として、籾井氏と、それに追従している、今のNHKの幹部を、そして籾井を仲間とする現政権を、公然と批判せずにはいられない、という、やむにやまれぬものがあり、出版したものと推測します。

 ところで、この本の表紙はやや変わっていて、本の題名を大きい字で書かれた、その真ん中に、体調3cmほどの甲虫類(コガネムシ?)の黒金色の写真が載っています。ある新聞のこの本についての書評で、この虫が気持ち悪い、本の品を落としているとの感想が載っていました。
 ただ私には、この虫の暗喩を理解することはできませんが、本来、きちんとした組織(報道機関)だったNHKに、なぜか異様な姿で紛れ込んだ、籾井氏を表現しているのかもしれませんね。

報道の自由、もしくは自由主義の重要性について、上村氏は、オルテガ(スペインの20世紀の思想家)の「大衆の反逆」の中の文章を、転載しています。

----自由主義とは、-----多数者が少数者に与える権利なのであり、したがって、かつて地球上できかれた最も気高い叫びなのである。自由主義は敵との共存、そればかりか弱い敵との共存の決意を表明する。人類がかくも美しく、かくも矛盾に満ち、かくも優雅で、かくも曲芸的で、かくも自然に反することに到着したことは信じがたいことである。----

上村氏はこの言葉に続いて、次のように書いています。
----こうした精神と真逆の発想にしがみついているのが、現政権であるように思われますが、そうした精神が籾井会長に乗り移っているのではないかと思わざるをえないのです。-------

そして、少数者の方がしばしば正しかった、というのは人間の歴史の中で、あなどれない真実なのであり、日本の報道機関を代表するはずのNHKは、この真実を正しくわきまえておかなくてはならない、と述べています。(ここの文章は、私なりに要約したものです。)

上村氏の意見に、私は全面的に賛成です。
上村さん、ありがとう。  

               (2016 Jan.)