其の三 名前の謎


 これまで語ってきた物語の主人公である女性の「能恵」(ノエ)という名前の響きに、奇妙な感じを受けるのは私だけだろうか。

 そもそも、我が国の歴史、特に近世以前の時代において、女性の固有名詞が伝えられることは稀であり、かなり位の高い女性でも例外ではなかった。「法名の謎」で紹介した位牌にも女性の現世の名前は記されておらず、ただ「岩崎三郎道高の女子(ムスメ)」と記されるのみである。

 この位牌の主は、はたして能恵姫と呼ばれていたのだろうか。


水波能賣神

 龍泉寺と共に姫の霊が祀られたという湯沢市岩崎の水神社の祭神は「水波能賣神(ミズハノメノカミ)」と「タカオカミノカミ」の二柱であるが、この水波能賣という女神とタカオカミという龍神の組み合わせが、私には能恵姫と龍神の姿に重なって見える。

 水波能賣神の能賣(nome)の音が能恵(noe)に変化したとは考えられまいか。「ヒメ」という言葉は城主の息女だけでなく、女神をも意味するのだから。

 水神社と龍泉寺、それぞれの縁起として能恵姫の物語が整えられたということは言えそうである。


 ここで上の水波能賣神の姿をよくご覧になりつつ、次の謎へお進み下さい。


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