其の二 法名の謎


龍神にさらわれた能恵姫の菩提を弔うために建立されたという、稲川町川連の龍泉寺にはその由来をしのばせる位牌が残されている。



     ○位牌に記された文字

 天正元酉年十一月初丑之祭

當寺開基龍泉寺殿禮府妙見大姉

   岩崎三郎藤原朝臣相模守道高女子


 今まで、この天正元年という年号や、岩崎氏の名前のみが議論の対象とされてきた。しかし、私はそれよりもこの女性の法名に注目すべきだと思う。

 「禮府(礼府)」(レイフ)とはおそらく、物語で姫の泣き止めの祈願をしたという白藤明神の鎮座する「霊府森」(レイフモリ)を意味していることと思う。そして、「妙見大姉」(ミョウケンダイシ)とは「妙見大士」(ミョウケンタイシ)の別名でも呼ばれる「妙見菩薩」を意味しているのではないか。というのは、白藤明神に祀られているのが他ならぬこの妙見菩薩なのであり、「禮府妙見大姉」とは「霊符森の妙見菩薩」という意味が込められた法名であると推測されるからである。


 妙見菩薩とは北極星を神格化したものであるが、古くからその周りを回る北斗七星への信仰と融合していた。国土を守護し、災厄を除き、福寿を増益する菩薩であるということで信仰されていたが、中世以降千葉氏,相馬氏、大内氏に武神として信仰されるようになる。また、その尊像が龍や亀という水にまつわる動物の上に乗る姿で表されるので、水神としても祀られている。

 ちなみに、霊符森の霊符とは「鎮宅霊符神」という道教、陰陽道系の神の名前に由来していると思われる。なぜなら、これもまた北極星、北斗七星の化身であり、古くから妙見信仰と融合している神だからである。


 岩崎城の別名は妙見城(明建ケ城)であり、岩崎氏が氏神として白藤明神を厚く信仰していたことが想像できる。

 岩崎氏の信仰や、物語全体の流れ、位牌に残された法名をみると、私には次のような事実が浮かんでくる。輿入れの途中に龍神にさらわれるというのは考え難いにしても、挙式の日を前にした女性が水難に遭って死亡するということは有り得る。そして、この非業の死をとげた女性の霊の祟りを恐れ、菩薩として祀り上げることにより、この水系の守護神となることを願ったのではないだろうか。つまり、死後「霊符森の妙見菩薩」の化身としてこの女性を位置づけたのではないかと思われるのである。


 以上、私なりの謎解きをしてみましたが皆さんはどう思われますか。


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